保助看ページ 136号

保健師

いまいずみ あつこ

今泉厚子さん

若いスタッフが自主的に考えて動く職場にしたい

荒川区保健所
健康推進課

今年から統括保健師となり統括をする立場です。みんなのモチベーションを引き出すために「時間をかけて了解を得ながら話を進めること」を意識しています。自分の役割は「スタッフが自分で考えて意見をもち、チームで協働して前を向いて仕事ができるように環境を整えること」だと思っています。実際は統括未満なのかもしれませんが、みんなが安心して活躍し、成長を感じながら仕事ができるように裏方で支えるような自分でありたいと思っています。「自らの考えをもち、仲間とともに切り開く力」をもった若いスタッフを育てていきたいです。

「自分で切り拓くことができる力」をもった、若いスタッフを育てていきたいです

現在のお仕事についてお聞かせください。

荒川区保健所の「健康推進課」で保健師として勤務しています。区の在職はもう34年になりますが、2019年末で退職し、現在はフルタイムの再任用です。

立ち位置としては、今年度に統括を拝命しました。
50代の頃は、「定年後は若い人の後ろ盾になりたい。そして63歳で終わりにしよう。」「60〜63歳の3年間は、後輩たちに自身が体験し、学んだことを伝えていく期間にしよう」と思っていました。
しかし、60歳になった年から「コロナ禍」となり、「人に伝える」「人を育てる」という仕事どころではなくなりました。コロナに振り回されながら63歳になってしまいました。

人と関わるのが難しい3年間でしたよね。

また前任の統括保健師が退職し、定年後再任用という立場の私が駆り出される形で現職につきました。どこの保健所も似たようなことが起こっていると聞いていますが、職員の年齢層が2極化していて、50代が少ない状況でした。

ぼんやりしていたのに予定外に「統括保健師」となり、それから改めて、スタッフの顔ぶれを見まわして、どのようにすればそれぞれが活躍できるかを考えて、またコロナ禍を乗り切れるか、応援体制を腐心しました。

業務としても、コロナになって、保健所が担っている「健康推進事業」がほとんど出来なくなり、どうやって再構築していくかを考えなければなりません。誰も経験したことのない事態でしたので、皆で知恵を出し合っています。

今の立場を、ご自身でどう感じていますか。

私は、人は好きですが、人の上に立って差配するのは苦手、というか時間がかかる方だと思います。コロナの応援配置ひとつとっても「時間をかけて対話し、納得してもらってから話を進める。」を意識しました。負担を感じる職員もいたと思いますが皆協力してくれています。

この仕事になってから、変わったことなどありましたらお聞かせください。

職員に対して「仲間」というスタンスから少し距離を置いて「集団」としてみるようになりました。ちょっと寂しいですが必要であると思っています。チームで仕事をするときは誰が何が得意で何が不得手か、そこを誰がサポートしているのかもしくはサポートされていないのか。サポート側にまわっている人は負担に感じていないか、などを把握する必要があります。
「大丈夫です」という答えが返ってくる時は、ちょっと気になります。大丈夫でないことも多いですから。そういう場合は、「疲れてない?」といった声かけで気にかけていることを示すなどの工夫をしています。

看護職としてのこれまでの道のり、その経験が現在の業務にどう活かされているかなどを教えてください。

高校生の頃は「生物を学びたい」と思っていました。でも一方で、研究職に就くほどではなく、結局は教養課程で生物が学べて、専門課程で将来の職業につながる、ということで大学、学部を選びました。今でもナチュラリストの活動には興味をもっています。また、この仕事でもたくさん学んでいるとも感じています。

卒論のテーマは「家族」でした。「家族の関係性が良いと、健康度も高くなる」という仮説をたてて検証したんです。今でも「家族」にはすごく関心がありますし、家族の変遷を感じながら仕事をしています。

現在の業務に求められる役割についてどのように感じていますか。

統括の役割は国が示している指針に示されていますが、現在の自分ができる事は「職員が自分で考え、仲間と一緒に前を向いて仕事ができるように環境を整える。」ことかなと思います。
職員が自己研鑽できるような研修体制を整え、周囲からアドバイスを得て動けるようなチーム環境を作るための黒子になること、でしょうか。そのためにも報告することを強調しています。

業務においてご自身が心がけていることや大事にしていることなどありましたら教えてください。

事例検討は大事にしています。今は母子、精神などの事例検討をしていますが他にもチームでも事例の相談をしています。そこで意識しているのは「人の頭を使って考える。」です。一人で考えることは限界があり、「これだ!」と思ってもただの思い込みだった、他の方の意見を取り入れることで解決につながったという経験を何度もしてきました。自分は絶対にこれ!と思っていても、他の職員に意見を聞くと、全く違う答えが返ってきたりしますし、それがまたこちらの視点にも役立ったりします。

ご自身のキャリアの中で、印象的なエピソードなどありましたら教えてください。

保健師になる前、病院で看護師をしていたころの事ですが、糖尿病の患者さんにインスリンを打つための注射器がその日から変更されていたことがあったんです。私はそれを知らないまま勤務に入り、目盛りが変わっていることに気づかず、倍量を投与してしまいました。幸いすぐ気づいてドクターコールして、その患者さんは丸1日点滴を入れ続けることになりました。ものすごくショックで、自身を責め、患者さんに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
翌日の朝、その患者さんが一言こう声をかけてくださいました。「あなたが辞めなくてよかった。」もちろんミスはあってはいけないことですが、この一言で私はすごく救われました。この一件は、40年たった今でも、忘れることなく私の中にあります。人を許す気持ちの大切さ、忘れずにいたいと思っています。

これからの夢や希望などをお聞かせください。

65歳まで働くとすると、あと1年半です。
自分自身の引き際というものを考えたときに、私ができることは限られていてやはり若い職員が、「自分で考え、意見を持ち、チームで協働して前を向いて仕事ができる」ような職場をめざしたいですね。65歳以降は身の丈にあった仕事かボランティアをしていると思います。

あとは、なかなか長い休みが取れずにきたのでコロナが落ち着いたら旅行をしたいですね。カナダか北欧、 オーロラが見てみたいです。寒いのは苦手ですが。

今後キャリアを積まれる看護職の皆さんへの「メッセージ」をお願いします。

自分で考え、意見を持つ、自分の道を切り開く力を持つ人になってください。
また、広い視野、高い視点で物事を見るためにも、本をたくさん読むことをお勧めします。
私が最近読んで印象的だったのは、砂川秀樹さんの「カミングアウトレターズ」です。ゲイ/レズビアンの子が、親や先生にカミングアウトする際の往復書簡を掲載したノンフィクションで、リアルな「親子関係」「師弟関係」が描かれており、非常に興味深い1冊でした。よい本にたくさん出合うと人生が豊かになります。ぜひ多くの本を手に取ってみてください。