保助看ページ 136号

助産師

いまい ようこ

今井洋子さん

「人」を支えるのは、「人」なんです

東京都看護協会
子育て支援委員会 委員長

産科を定年退職し、現在は保健所で「妊婦面接」の仕事をしています。産科とは異なるフィールドですが、数え切れないほどの出産に立ち会ってきた経験が活かされていると感じる場面がたくさんあります。保健所は、妊婦面接、健診、保育課と、多くの部署で母子と長くかかわっていくので、ちょっとした違和感などでも、できるだけ記録に残すように心がけています。私は助産師の仕事が大好きです。赤ちゃんがこの世に生まれようとする力と産婦さん自身の新しい命を生み出す力を信じて、多くのお産に携わってきました。若い方に「助産師になりたい!」と思ってもらえるよう、今後も魅力を伝え続けたいと思っています。

保健所に移って、ゆったりと散歩ができる時間がつくれるようになりました

現在のお仕事についてお聞かせください。

2021年度で産科の臨床助産師を定年退職し、2022年度から保健所で働いています。
母子手帳を取りにきた妊婦さんにお話を伺う「妊婦面接」が主な仕事で、分娩施設が決まっていない方や、産後のサポート体制が何もない方などに、個別に対応し、必要なサポートをしています。

定年退職してから半年くらいは、主に電話で、コロナ陽性の妊婦さんのお話を聞いてサポートする仕事をしていたので、「妊婦面接」の仕事はまだ数か月です。

現在の立場になってから変わったことをお聞かせください。

妊婦さんとお子さんにかかわり、必要なサポートをする、という意味で共通する部分も多いのですが、産科では妊娠期〜産後1か月くらいまでのかかわりでしたが、保健所は妊娠期から産後、その後も1歳半健診、3歳半健診、保育、学童などで長くかかわっていきます。子どもの成長に合わせて担当部署は変わっていきますが、ここが大きな違いだと感じています。

私自身の変化としては、産科にいた頃は、曜日に関係なく「シフト制・夜勤あり」の勤務でしたが、現在はカレンダー通りに平日は出勤し、土日は休む、という生活になりました。ちょっと運動不足が気になってきたので(笑)、毎朝「テレビ体操」を始めました。ゆったりとお散歩も楽しむようになりましたね。

看護職としてのこれまでの道のり、その経験が現在の業務にどう活かされているかなどを教えてください。

「人の役に立ちたい」と看護学校に進学し、産科の実習で、出産の現場に立ち会い、「助産師になる!」と決めました。そこから60歳になるまで、ずっと出産の現場にいました。
今は妊婦相談という立場ですが、これまで数え切れないほどの出産に立ち会ってきた経験が活かされていると感じる場面はたくさんあります。
例えば、「無痛分娩と自然分娩ではどんな違いがありますか?」と聞かれたとき、実際にどちらの出産にも立ち会ったことのある私だからこそ、リアルなアドバイスができます。
今は、インターネットなどからたくさんの情報が得られますが、やはり「生の声」から得られる安心感は大きいのではないでしょうか。

現在の業務に求められる役割についてどのように感じていますか。

妊婦面接の大事な目的の1つとして、「表面化していない問題に気づく」というのがあります。不安や困りごとを訴えてくれる妊婦さんばかりではないですからね。

例えば、以前経験した妊婦面接で、「里帰り出産をします」という3人目妊婦さんがいたのですが、上のお子さま2人も連れて里帰りする、と頑なにおっしゃっていました。上の子は小学生なので、学校に通えなくなるのでは? と違和感を覚えたので、記録に残しておきました。地域担当の保健師や、関係部署みんなで注意深く見守っていると、やはり、そのご家庭には、父親と上のお子さまだけにはしておけない理由があったのです。
このように、見守りが必要なケースなどを、問題が起こる前にすくいとっていくのが大事だと思っています。
常に「あれ?」というちょっとした違和感を見逃さずに話を聞くようにしています。

ご自身が仕事上で、心がけていることや大事にしていることなどありましたら教えてください。

先ほどのケースのような「ちょっとした違和感」を、きちんと記録に残しておくように心がけています。「保健所は母子と長くかかわる」と言いましたが、妊娠期は妊婦面接、出産したら健診、保育園などは保育課と、かかわる部署は変わっていきます。自分の頭の中だけで「ちょっと心配だな」と終わらせずに、かかわるスタッフ全員がそれを共有できるように、細かいことでも記録しておくようにしています。

ご自身のキャリアのなかで、印象的なエピソードなどありましたら教えてください。

助産師として、産科で働いていたときの話です。夜勤明け、そろそろ帰ろうかという時間帯に、初産の妊婦さんから「茶色っぽい出血がある」と電話がありました。鮮血ではなく茶色っぽい出血、しかも少量、ということで、「もうしばらく様子を見ていてもよいかな」とも思ったのですが、話を聞くと、「1週間近く続いている」というのです。
1週間も続く出血に違和感があり、病院に来てもらって検査をすると、「胎盤早期剥離」でした。「胎盤早期剥離」の代表的な臨床症状は、サラサラとした多量の鮮血と腹部の激痛、腹部の緊満(板状硬)などでしたが、それらの訴えがなかったので、私もまさか「胎盤早期剥離」とは思っていませんでした。あのとき、きちんと来院してもらって本当によかったと思っています。早い段階で気がついて適切に処置したことで、母子ともに元気に退院することができました。

これからの夢や希望などをお聞かせください。

保健所もさらに頑張って、助産師業界を盛り上げ、助産師の魅力をもっともっと伝えたい、若い方に「助産師になりたい!」と思ってもらえるようにしたいです。

今後キャリアを積まれる看護職の皆さんへ「メッセージ」をお願いします。

看護師や助産師になったときがゴールではありません。
いくつになっても、人は必ず成長していきます。
私は助産師の仕事が大好きです。赤ちゃんのこの世に生まれようとする力と産婦さん自身の新しい命を産み出す力を信じて、多くのお産に携わってきました。「これから人生を歩むんだ!」というパワーにあふれて泣く赤ちゃんと、ホッとした笑顔を見せるお母様……。今まで経験したどのお産も忘れられません。
この瞬間に会いたくて、30年近く続けてきました。1つの職業を長く続けてきたからこそ見えてくる景色もありますので、若い方もぜひ、長く続けていただけたらと思います。
周りと比べてできないことがあっても、「自分はできない」と恥じることはありません。1年前の自分と比べると、必ずどこか成長しているはずです。成長し続ける看護職であってほしいと願っています。