保助看ページ 136号

看護師

しのはら ゆうこ

篠原祐子さん

病院での経験を生かし介護の職場へ

介護老人保健施設
サンセール世田谷大蔵

医療機関を定年退職し、現在は老人保健施設で働いています。「介護現場のほうがゆったりしている」という勝手なイメージがありましたが、「看護職は自分だけ」という時間帯での急変など、誰にも頼れない状況でスピーディな判断や指示を求められることも多いですね。また、「認知症」の方に対する対応などは、医療従事者全体、社会全体が取り組むべき課題でもあると感じています。約40年、看護師として働いてきて、看護の仕事の素晴らしさはもちろんですが、ライセンスとしての強みも感じています。定年後も働く場所がたくさんあり経済的な安心感もあります。若い方にもぜひ、長く続けて欲しいと思っています。私が感じる 「長く続けるコツ」は、「頑張りすぎないこと」と、「困ったときには誰かに頼ること」です。

介護現場は違った意味で緊張感があり、新たな学びも多く楽しいです

現在のお仕事についてお聞かせください。

医療機関で40年近く働き、60歳で定年退職、現在は自宅近くの老人保健施設で働いています。働き方はいろいろ選択肢がありましたが、私はフルタイム勤務を希望し、夜勤も月6回ほど行っています。
老健に強い希望があったわけではなく、再就職先を探しているうちに、ご縁があったのがこちらでした。自宅に近いので、「やっと地元に恩返しできる」という気持ちですね。

医療機関にいた頃は、「介護現場のほうがゆったりしている」という勝手なイメージをもっていたのですが、違った意味での緊張感があり、新たな学びも多いと感じています。

やはり、苦労される点が違うのですね。

そうですね。ラウンドすると呼吸が止まっていた、ということもありますし、「看護職は自分だけ」という状況での急変もあります。医師もほかの看護師もいない状況で、その場その場での判断や指示を求められることも多いですね。

また、医療機関で働いていた頃は、比較的「疾患」への対応という視点だった気がしますが、今はさらに「人」「生活」をしっかり見ていかないと、と感じています。
特に「認知症」の方に対する対応はきちんと学ぶ必要性を感じ、「認知症ケア管理士」という資格をとりました。今後もますます学びを深めていくべき分野だと感じますし、それは、私個人だけでなく、医療従事者全体、社会全体が取り組むべき課題でもあると考えています。

管理職という立場から今の働き方は変わりましたか?

病棟で師長をしていた頃は、看護師たちの指導や評価をしながら、医療機関としての業績アップという視点も求められていました。
さらに、私を最も苦しめていた「勤務表の作成」など、事務的な仕事も多く、休みの日も仕事を持ち帰っていて、常に「休まらない感じ」がありました。
現在は、師長ではないということもありますが、それを差し引いても休日はリラックスできています。仕事を持ち帰ることもなくなりました。

ちなみに、今の職場での師長は、私よりさらに先輩の70歳代ナースが頑張ってくれています。

休日の過ごし方は?

看護学生の頃からずっと茶道を習っていて、着物を着る機会が多いので、「60の手習い」で着付けを再チャレンジしています。
茶道は、仕事での緊張感や大勢の患者や職員が絶えず動いているのとは反対に、茶道の静が心を落ち着かせてくれ、看護師としての生活に欠かせないものだったので、気がついたら40年以上続けていました。今後は、着物をスマートに着付けてお茶会に参加できるようになるのが楽しみです。

ご自身のキャリアのなかで、印象的なエピソードなどありましたら教えてください。

病棟師長になって数年たった頃だったと思いますが、子宮がんの30歳代女性が入院してきました。
発見が遅れ治療がうまくいかず全身状態も悪くなり、ほぼ寝たきり、という生活でしたが、その女性が「タバコを吸いたい」と言ったのです。
もちろん、身体のことだけ考えれば喫煙なんて言語道断ですし、そもそも院内は禁煙です。それでも、スタッフが皆、「行きましょう」と、ベッドごと外にお連れして、彼女に一服してもらったことがありました。
私は何かあったら責任はとるつもりでしたが、止めようとは思いませんでした。
遠くを見ながら静かにタバコを吸っていた彼女の横顔を、今でもたまに思い出します。
「また行きましょうね」と言いながら病棟に戻りましたが、結局それが彼女の「最後の一服」になってしまいました。

ご自身が仕事上で、心がけていることや大事にしていることなどありましたら教えてください。

穏やかなことが自分の強みだと思っています。もちろん、厳しくするところは厳しくしますが、基本的には感情の起伏が激しくないので、職場の雰囲気づくりに一役買っていると思います。
また、医療機関でいろいろな疾患を経験している看護師は、やはり介護の現場に行っても強いと思います。
訴えの多い方や依存的な方に意識が向きがちですが、実は逆の方も多くいらっしゃいます。加齢で身体の感覚が鈍ってきているのか、痛みや苦しさの訴えが何もなく、気づいたら褥瘡になりかけていたり、肺炎になりかけていたりというケースもあります。こうなる前に、日常生活のなかで「ちょっとした違和感」に気づくことができるのも、経験を積んできたからこそだと思っています。

これからの希望や展望などありましたら教えてください。

コロナで、利用者さんのレクリレーションや季節の行事などがなくなり、スタッフの異動も多くなりました。コロナ禍の中でも、もっと利用者さんやスタッフと会話したいですね。特に、介護の現場では「看護職と介護職の間の雰囲気がよい」ことが大事だと思っています。スタッフ間で良好なコミュニケーションが取れていると、利用者さんにもよいエネルギーが伝わるのではないでしょうか。

今後キャリアを積まれる看護職の皆さんへの「メッセージ」をお願いします。

約40年、看護師として働いてきて、看護の仕事の素晴らしさはもちろんですが、ライセンスとしての強みも感じています。定年後も働く場所がたくさんあり、経済的な安心感もあります。
しんどいこともあるかと思いますが、若い方にもぜひ、長く続けてほしいと思っています。私が感じる「長く続けるコツ」は、「頑張りすぎないこと」と、「困ったときには誰かに頼ること」です。

人間関係がつらくなることもあるかもしれませんが、ともに切磋琢磨した仲間は生涯の宝物にもなります。私自身も、病院時代の師長仲間と今でも集まることがあり、コロナ前は1年に一度、一緒に温泉旅行に行くのが本当に楽しみでした。今は大変に感じることも、すべてが素晴らしい経験になるはずです。