保助看ページ 137号

保健師

さとう みき

佐藤未来さん

江戸川保健所
江戸川区健康部地域保健課調整係
総括係長

Profile
1990年新卒採用で東京慈恵医科大学付属病院に入職。 保健師免許取得のため、5年後に都立公衆衛生看護専門学校(当時)に入学し、翌1996年、江戸川区に保健師として入区。 係長級は9年目に入り、現在の地域保健課は6年目になる。

コロナと闘った仲間達とお疲れ様会

保健所の地域保健課調整係の総括係長として、健康づくり事業の企画や調整をしています。 例えば江戸川区には「睡眠の質向上係」があり、先日は、助産師会や地域の企業と一緒に、自治体としては全国初となる睡眠のイベント『快適睡眠フェア』を開催しました。 地域保健は決して保健所だけで担うのではなく、行政も地域も区民も同じ方向を向いて取り組むことが大事だと思っています。 保健師は「地域の健康づくり」のプロフェッショナルですが、地域の健康づくりにゴールはありません。 常に「よりよく」を目指し、アップデートしていくのがプロフェッショナルだと思っています。

「地域のために何ができるか」を考えていく職業

携わっている保健師のお仕事について教えてください

江戸川保健所の地域保健課調整係というところで、総括係長をしています。 主に、地域住民の健康づくりに関する事業の企画や調整を行っています。
例えば、江戸川区には「睡眠の質向上係」という係があり、地域の皆様に、より良い睡眠をとっていただくことを目標にさまざまな活動をしています。 先日は、自治体としては全国で初めて、睡眠にフォーカスしたイベント『快適睡眠フェア』を開催しました。
地域の助産師会などだけでなく、明治安田生命様、大塚製薬様、西川様などの一般企業もこの取り組みに賛同してくれたこともあり、当日は悪天候だったにもかかわらず、述べ1,500人もの方が来てくれたんですよ。
地域保健は、決して保健所だけで動くのではなく、江戸川区の課題を広く共有し、行政も地域も区民も、同じ方向を向いて取り組んでいくのが大事だと思っています。

これまでの保健師としてのあゆみを教えてください

看護師になってしばらく大学病院で働いていました。 その時に、白血病の患者さんを担当したのですが、その方のお子さんがまだ小学生だったんです。 その時にできるベストな治療、ベストな看護を提供し、骨髄移植も行ったのですが、再発し、亡くなってしまいました。
その時ですね、「予防が大事!」とはっきりと感じたのは。 そこから、専門学校に通って、保健師の資格を取りました。

保健師としての立ち位置になると、見えてくるものも変わりますね。 病院看護師だった頃は、精神科の患者さんが大量服薬で搬送されてきたりすると「地域の看護師さん!ちゃんと服薬管理してよ!」なんて思ってたんですけど……さすがに難しいことがわかりました。

あと、これはグチではないのですが、病院だと毎日「ありがとう」と感謝されながら仕事をしていましたが、保健師になってからは言われなくなりました。
病気になった時は、医療のありがたみを感じますが、そうでない時は、「毎日健康で生活する」のが当たり前に過ごしていますからね。
私たちは、その「当たり前」を維持していくために何ができるかを考えていく職業ですので、それでいいんです。

達観していますね。

そうは言っても、やりがいを感じられなくなった時期もありましたね。
保健師として9年目に介護保険課に配属された直後は、ケアマネジャー研修の準備や資料づくりなどの事務仕事が比較的多く、ちょっとモチベーションが下がってしまいました。
しばらくは「石の上にも3年」の精神で、ただ耐えていたのですが、徐々に「与えられた仕事をこなすだけでなく、保健師としてできることを見つけよう!」と思うようになったんです。
例えば、以前から、在宅支援センター(現在の地域包括ケアセンター)との情報共有が必要だと感じていたので、地域の方々に声をかけ、「事例検討会」をはじめました。専門的な心理的アプローチが必要かな、と思ったら、そこに心理士さんを呼んだり、虐待の事例があった時は、弁護士会の方に声かけをして、法的な部分を教わったりしました。
そうやっていくうちに、「企画・立ち上げの面白さ」に目覚めていった感じです。

そうやって、やりがいを見つけていったのはすごいですね。

保健師2年目に出会ったグループワーカーさんの影響だと思います。
その方から、すごく刺激を受け、たくさん学ぶことができました。
在宅訪問の時も「”依頼されたから行く”じゃない。”自分は保健師として何ができるか”を考えて、意図を持って訪問してほしい」と言われました。「意図を持って」というのは、地域の方への声かけなど、日々のちょっとした言動についてもずっと言われていましたね。
私はそれまで、割と「そつなくこなす」タイプだったのですが、この方と出会って変わった気がします。

印象に残っているエピソードなどあればお願いします。

虐待の事例はどれも印象深いですが、中でも強く心に残っている母娘がいます。
「高齢のお母様の身体に、アザ・タバコを押し付けられた跡がある」ということで相談を受け、関わることになったのですが、「被害者である母」「加害者である娘」という単純な構図ではなく、娘さんも、子どもの頃にこの母親から虐待を受けていたと分かりました。
「私が母から殴られていた時は、誰も助けてくれなかった」「どうして母だけが守られるんだ」と訴える娘さんの気持ちも痛いほど分かります。高齢者虐待のケースとして業務を進めながらも、心の中では娘さんに「子どもの時、辛かったのに助けられなくてごめんね」とずっと思っていました。高齢者虐待をなくすためには、児童虐待からなくしていかないと難しいと感じています。
ショートステイを活用して家族から分離し、施設入所の相談をするために娘さんと話し合いをしていた時に、たまたま母親に遭遇して、連れ帰ろうとしたので、止めようとして取っ組み合いになったエピソードもあり、色々な意味で印象深いケースでしたね。履いていたパンプスを脱いで投げつけてきた時はびっくりしました(笑)

保健師を目指される方たちへのメッセージをお願いします。
また、保健師になるにあたって、こんな資格を持っておくと良い、などがあれば教えてください。

「対・個人」として看護をしていくのが看護師だとしたら、保健師は比較的、「対・集団」で考え、事業を作っていくお仕事だと思います。もちろん、先ほどのケースのように「個」をみる力も必要ですが、より広い視野で専門性を生かすことができるのが保健師です。一緒にやりましょう!

資格といいますか、精神の勉強をしておくと良いですね。それから発達障害への対応は、すべての子どもへの対応につながります。母子保健や精神保健、福祉についての知識も使いますね。

プロフェッショナルとして、伝えたい思いなどあればお願いします。

保健師は、昨今ますます狭き門になっています。それなのに、離職率もすごく高いのが残念です。
志をもって就職したのに、モチベーションはあっても徐々に辛くなってしまう保健師を減らしたいといつも思っています。やはり「やりたいこと」と「やらなければいけないこと」の乖離に戸惑う若い方もいるのかなぁ、と思います。

例えば、地域課題、つまり「いま、住民の目の前にある課題」に対して対応し、方針を決めていくのはとても面白いし、課題の解決に直結するのでやりがいもあるのですが、一方で国や、(江戸川区でしたら)東京都などに「○○をやるように」と言われて動く事業も多く、それは「やるべきこと先にありき」で、ちょっとやりにくさを感じることもあるんです。
そんな時も、その事業を俯瞰して眺めてみるとか、「どういう目的で、これをやれと言われているんだっけ?」と自分の頭で考えてみると、きっとどこかで、自分のやりたいこととオーバーラップしていたり、工夫次第でやりたいことに近づけていったりすることができます。

保健師は、「地域の健康づくり」のプロフェッショナルですが、地域の健康づくりにゴールはありません。常に「より良く」を目指し、研鑽し、知識のアップデートをしていくのが、プロフェッショナルだと思います。