保助看ページ 137号

看護師

みはら ゆきこ

三原由希子さん

東京医科大学病院
緩和医療部 看護師長
乳がん看護認定看護師

Profile
1995年に新卒で東京医科大学病院に入職し、28年目を迎える。2011年に乳がん看護認定看護師の資格を取得。病棟・外来でがん看護に横断的に携わり、2019年に看護師長となる。院内のがん診療や看護に関わる活動・運営にも携わっている。

総合腫瘍センターで患者さんの看護相談や緩和ケアチーム、化学療法センターの管理などをしています。 看護相談は症状への対策など具体的なケア提供をすることもあれば、意思決定支援なども実施します。 乳がん看護では、若い患者さんも多く、人生に深く関わるサポートが必要で責任も大きいですが、やりがいもあります。 また、私の関わりを通して、他の看護師も新しい関わり方を考えるようになっていくのはとても嬉しいです。心を柔らかくし、 「自分がしているケアは有効的か?」を常に考えながら患者さんに関わっていきたいです。

根拠をもって関わることで自分が何をすべきか明確になる

携わっている看護師のお仕事について 教えてください

東京医科大学病院総合腫瘍センターで、乳がん看護認定看護師として働いています。緩和ケアチーム・外来化学療法センターの看護師長として患者さんのサポートや後輩看護師の指導をしたり、緩和ケアチームの一員として病棟をラウンドしたり、「がん看護外来」で、患者さんやご家族の相談に乗ったりと、幅広い業務に関わっています。

どんな相談が多いのですか?

相談内容は、治療方針に関するもの、副作用についての相談や、心理的サポートを求めるものなど多岐にわたりますが、件数が多いのはリンパ浮腫についての相談ですね。がん治療の影響によるリンパ浮腫は一度発症すると治りにくく、浮腫んだ部分が重たく感じたり、関節が動かしにくくなったりするため、ただでさえ体力が落ちがちながん患者さんの活動性やQOLを大きく低下させます。こういった場合は、マッサージや弾性包帯など、具体的な対処法を指導しセルフケアを支援することで改善されます。
一方、治療の意思決定に関する相談などは少し関わり方が異なります。こちらが具体的にアドバイスするというよりは、まずは患者さんの気持ち、ご家族の気持ちをすべて吐き出してもらった上で、患者さん自身の選択を少しだけサポートする、見守るという立ち位置ですね。

例えば、胃がんの手術1つとっても、全摘するか部分摘出にするか、という選択肢があります。医師の説明を受けた患者さんは、それぞれのメリットやデメリットなどを、知識としては知ることができても、「じゃあ実際にどうするか」決めるまでをサポートする人が以前はいませんでした。
「じゃあどちらにしますか?」ではなく、患者さんが「何を優先したいのか」「どんなデメリットであれば受け入れられそうか」など、対話しながら頭の中を整理し、決定するのを助けてあげるのが私の役割です。

これまでの看護師としての歩みや、乳がん看護認定看護師取得を目指された理由などを教えてください

看護学校に進学したのは、単純に「資格があったらいいな」くらいの気持ちでしたが、学校での学びはとても楽しかったです。
卒業後、最初に配属されたのは耳鼻咽喉科病棟で、がんの患者さんが多かったのですが、治療が成功してがんが治っても、声や聴力を失ったり、気管孔が開いたまま一生過ごさなければならなくなったりする方がたくさんいました。
「がん」と診断されたときは、無我夢中というか、「とにかくがんが治れば」という思いで治療に臨む方が多いのですが、治療が終わってからも「がんサバイバー」としての人生は続いていきます。そこまでサポートしてあげられているだろうか、と思うことが多くありました。ここでの経験は、今の私の基礎になっています。
ちょうどその頃、当院の乳腺科専門の病棟へ配属となり、病院としても医療チームとしても乳がん看護認定看護師の存在が求められたため、乳がん専門看護師の資格を取得しました。

資格を取得したことで、看護に対する考え方や働き方に対する変化はありましたか?

根拠をもったケア、コミュニケーションができるようになりました。 これまでも、患者さんの訴えは全力で傾聴していましたが、今は、「この辺に不安がありそうだな」「この辺りをきちんと聞き出してみよう」などと、患者さんの思いを整理しながら話を聞くことができています。コミュニケーションにもトレーニングが必要だと思っていますし、患者さんの思いを傾聴しながら、ケアの妥当性なども一緒に考えていくためには、最新の知識も必要です。「自分がしているケアは有効的か?」を常に考えながら看護ができるようになりましたね。

助産師を目指す方たちへ、メッセージをお願いします

働きながら助産師を目指すのは大変そう…と、感じている若い看護師さんもいらっしゃるかもしれません。でも、助産師に興味があるのなら条件が全て揃ってから、ではなく、見切り発車で良いと思います。やりたい!という時にチャレンジするのがベストタイミングです。若い時の方が体力もありますしね!

がん看護認定看護師として、印象に残っているエピソードなど、ありましたら教えてください

若い乳がんの方で、早めにしっかり治療すれば完治を目指せる状態だったのにも関わらず、患者さんの不安が強く、治療が決められない、怖くて治療に前向きになれない、という方がいらっしゃいました。そこで「とにかく早く治療をしましょう」と言うのではなく、その方が外来に来るたびに思いやお話を聞く、といった関わりを続けました。
話を聞いていくうちに、本人も気づいていない不安が感じられたので、そこを引き出して相談に乗り、不安を少しずつ解消していくことに努めました。その結果、自ら前向きに治療に臨んでくれることになり、最終的に完治したときはとてもうれしかったです。

もう1つ、子どもや家族にがんであることをどう伝えるかという相談も多くあります。その中で、小学2年生の女の子がいる患者さんのAさんは、「自分が乳がんであることは子どもには伝えない」という意思があったので、その意思を尊重して支援をしていたときです。
娘さんは、Aさんの異変に気づき、自分なりに小学校の図書館で「がん」について調べていたんです。ある日、「ママはこの病気なんじゃないの?」「乳がんなんでしょ? 治療が大変って読んだけど、ママを応援するから」と言われたとAさんから聞き、ちょっと胸がいっぱいになりました。子どもへの支援について、考え直した経験でした。

認定看護師を目指す方たちへ、資格をもつことで視点が変わったことなどありましたら教えてください

専門知識をもつとケアの幅が増えます。患者さんに提供できることが増えていくと、大変さもありますが、どんどん楽しくなってきます。
根拠をもって患者さんがみられるようになると、「自分が何をするべきか」が明確に見えてきて、とても楽になるんです。「楽」というと変かもしれませんが、効率よく関われる、というか、「患者さんのためになることができている」という感覚をもって関わることができるようになります。

最後に、プロフェッショナルとしてぜひ伝えたい!という思いなどあれば教えてください

乳がんは、ほかのがんよりも若い患者さんが多く、社会的に責任のある立場にいる方や、小さい子どものいる方、1人暮らしで誰にも頼れない方など、背景もさまざまで、幅広い、人生に深く関わるサポートが必要で責任も大きいですがやりがいもあります。多方面から患者さんと関わり、適切な支援ができたときには、「乳がん看護認定看護師」を選択してよかったなぁと、心から思います。

また、私の関わり方を見たり、私が担当している院内の「専門領域研修」などを受けたりした後輩看護師が、少しずつ吸収して、新しい関わり方ができるようになっているのを見るのもとても嬉しいです。
「吸収する」ことはとても大事ですね。そのためには、心を柔らかくもっていて欲しいです。心に柔軟さがないと、吸収ができずにそれ以上の成長がないと思っています。私自身も、まだまだ成長していきたいですね。