保助看ページ 138号

コロナ禍で看護人生をスタートして ─互いに支え合い貴重な経験に─

保健師

港区みなと保健所 健康推進課

きたむら りこ

北村 理子さん 新人(2年目)

Profile
コロナ禍の大学生活を経て、2022年新卒で東京都港区へ入職し、健康づくり係員2年目。事業とケースワークを両立し、母子・精神・成人・障害・高齢など様々な分野の対象者とのリアルな出会いに感謝しながら、日々仕事に励んでいる。

まえだ あゆみ

前田 あゆみさん メンター

Profile
愛知県内の病院で看護師2年、保健センターで保健師3年勤務し、結婚を機に上京する。2011年東京都港区に入職し、現在は主任5年目。小学生2人の育児に奮闘するワーキングマザー。

にのみや ひろふみ

二宮 博文さん 健康推進課 課長

左から前田さん、北村さん、二宮さん

通常業務とコロナ対応

保健所の「コロナ対応」はどのようなものだったのか教えていただけますか。

二宮:みなと保健所 健康推進課は、健康診断や健康教育に関する事業を担っており、がんや疾患に関する検診事業も担当しています。

コロナの状況下では、誰もが未知のものに対する怖さを感じていましたから、医療機関にも足が遠のいて、自然と「受診を控えよう」という風潮になっていきました。「受診控え」は検診の受診率にも影響し、「早期発見・早期治療」の趣旨に反する状況となりました。

保健所の使命として、「検診受診率を高めたい」という思いを抱く一方、想像を超えたコロナの対応に追われ、本来の業務がまったくできない時期が続いていたのが2021年度の保健所の実情です。

当時は、誰もが未知のウイルスに対する不安を抱えており、大げさではなく「秒」レベルで続く電話に夜中まで対応していましたね。保健師たちは本当によく頑張っていたと思います。

コロナ禍で過ごした学生時代。仕事のイメージがつかめなかった

そのような状況のなかで過ごした学生時代は大変だったのではないですか。

北村:保健所実習の多くは見学ができればまだいいほうで、実習が行えないことがほとんどでした。母子の健診や精神の方の訪問、高齢者の支援などの実習が予定されていたのですが、それも経験できないまま保健師として入職の日を迎えました。母子保健の実習では本来ならば3歳児健診や乳児健診で問診などを経験しますが、ほとんど見学でした。コロナのため訪問も行っていませんのでお母さんと会ってコミュニケーションを取ることができずケースの記録を見るだけでしたね。入職したものの、「保健所の業務とは」「訪問とは」といった保健所の具体的な業務内容がほとんど見えていなかったんです。その状態で現場に出ることは本当に不安が大きかったです。

学生時代に抱いていた保健師のイメージはどのようなものでしたか。

北村:実習がなかった分、保健師の仕事の想像はあまりできていませんでした。実務に触れることもなかったので、教科書的なイメージだけでした。母子保健や精神保健にも対応しているという実際の保健所のイメージはあまり湧かなかったですね。

訪問時にどんな準備をしてどんな声かけをし、会話のなかからその方の思いを引き出すためには具体的に何を話せばよいのか。また、ケース対応はどのような事が必要で、どのような支援につなげるのかなど、多くのことがイメージできていませんでした。

一番苦労したのは、お子さんをもつお母さんの電話対応です。生後2か月の赤ちゃんの母乳の量、離乳食はいつから始めたらいいのか、赤ちゃんが泣き止まないがどうしたらいいかなど、本当にさまざまなことを聞かれ、毎回確認しながら対応していました。自分の対応次第で赤ちゃんの状態も変わってしまうので、すごく慎重になりましたし怖いなとも思いました。

実際に現場に出てみて感じたのは、「事業や訪問等の目的・対象者にもたらされる意味は何か」「必要な支援につなげるためにどうすればよいのか」を考えることがすごく大事だということです。それを意識することで、自分が取り組むべきことが具体的に見えてくるからです。まだまだわからないことだらけですが、今はその2つを意識して事業と向き合うように心がけているところです。

コロナ禍で学生時代を過ごした新人さんに思うことは?

前田:私が学生だった頃とは時代も違うし地域の規模も違うので一概に比較はできませんが、北村さんは「わからないことをわからないと言える」ところが強いな、という印象があります。

実習ができなかった分、現場で貪欲に吸収しようとしているようにも感じますね。業務に慣れるかどうかの頃に保健所内の体制が変わり不安定な状況があったのですが、それにもかかわらず、どんどん吸収してさまざまなことを覚えてくれました。

情報共有もリフレッシュにも大切な「コミュニケーション」

指導する側/される側として感じたことは?

前田:入職したときは1対1でしたが、昨年の8月に体制が変わってからは一緒に勤務できない時間も多くなりました。まだまだ不安なことはたくさんあるはずなので、できるだけコミュニケーションがとれるよう、昼休みを一緒に過ごしたり、雑談をしつつ困りごとを聞いたりしています。

多くのケース対応をしていると毎日が初めてのことの連続で、わからないことがどんどんたまっていってしまうんです。

ところが北村さんは、「知ろうとする姿勢」がすごくあって、わからないことは家で調べたり勉強したりしてそのままにすることがないんですね。

保健師は、情報収集をして皆で解決していく姿勢が欠かせないのですが、それをすでに持っている。その姿勢は今後も忘れずにいてくれたらいいですね。

北村:私は上司に聞きたいことがあっても、頭の中がパニックになってうまく伝えられないことがよくあるのですが、そんなときは前田さんに話すことで冷静になり、整理することができるんです。

私は話すことで切り替えができるので、ケースに関する相談だけでなく、対応相手に対する悩みも聞いていただけてとてもありがたいです。 いつでも隣で相談できたので、モヤモヤした思いを抱えてもその都度解決できたのは助かりましたね。

コロナ対応で学んだ「聞く姿勢」を後輩につなげられたら

1年目を振り返ってお互いに思うことを聞かせてください

北村:前田さんが隣にいてくれることで安心感がありました。わからない場合の「調べ方」を聞けたのもありがたかったですが、何よりも前田さん自身がわからないことをすぐに調べているのを間近で見ていて、とても参考になりました。

吸収したい部分はほかにもたくさんあって、後輩にもつないでいきたいです。今はまだまだ周りを見ることができていませんが、いつかそんなふうになりたいと思っています。

前田:私たち保健師は、さまざまな困難を抱えた方々と日々向き合っています。そのなかには非常に難しいケースや、苛立つような感情が出てきてしまうこともあるんです。そんなときに、すぐに感情を吐き出せる環境は絶対にあるべきだと思っています。

コロナ禍では尋常ではない数の電話がきて、なかには緊急を要するケースもあり、余裕がないなかで対応せざるを得ませんでした。

ただ、今振り返ってみると、一人ひとりの話を十分に聞いてあげられなかったという反省が強くあり、やはり保健師の仕事は相手の話をとことん聞くことが大切だと再認識しています。それは、ケース対応でも後輩に対しても同じだと思います。

困っている人がいたらまずは話をよく聞くこと。その原点を忘れずに今後も活躍してほしいと思っています。