保助看ページ 138号

コロナ禍で看護人生をスタートして ─互いに支え合い貴重な経験に─

助産師

東京都立大塚病院
産科メインの混合病棟

いわと さえ

岩戸 紗英さん 新人(1年目)

Profile
新卒1年目の助産師です。まだまだ未熟ですが、妊産婦さんと赤ちゃん、そのご家族に寄り添ったケアができるよう日々頑張っています。休日はおいしいものを食べてリフレッシュしています。

うらの なつみ

浦野 夏実さん メンター(5年目)

岩戸さん(左)と浦野さん(右)

分娩介助と他科の看護。コロナ禍で変化した現場

病棟の受け入れや環境など、コロナで変化した点について教えてください。

浦野:当病棟のメインは産科ですが、コロナ以降は病床に空きがあれば産科以外も受け入れる体制になりました。入職してからコロナまでは産科のみに対応していたので、他科の看護が必要な状況となり学び直しが必要でした。当病棟には助産師だけでなく看護師も勤務しているため、さまざまな診療科を経験してきた看護師に学ぶことも多かったですね。

コロナの流行当初は、立ち会い分娩や面会が制限されて、産婦さんの孤独感や不安が大きな状況だったと思います。胎児への感染に関する情報もなかったため、コロナに罹患した産婦さんはすべて帝王切開となるなど、お産の形も変わっていました。

コロナに関するデータが少しずつ開示されるようになってからは、いろいろな制限が段階的に緩和されました。ただ、フルPPE(個人防護服)での分娩介助は本当に大変でした。PPEのなかで冷却シートを背負って対応したこともありますし、身体的な負担も大きかったです。

また、母親学級や沐浴の集団指導などは、個別や動画による指導に切り替えました。指導用の動画を撮影し、二次元コードでスマホから動画を見てもらうなどの工夫はしていたのですが、密を避けるために授乳室もなくなっていたので、お母さん同士の交流の機会がなく、お母さんの精神的なサポートも必要でしたね。

専攻科に進学する際に感じた「看護実習の不足」

コロナ禍で過ごした学生時代、実習はどのくらい実施できたのでしょうか。

岩戸:助産師になるにあたり、4年制の看護大学を卒業してから助産学の専攻科に進みました。看護大学の4年生の実習はあまりできませんでした。通常だと4年生のカリキュラムはほとんど実習になっていて、患者さんと実際に関わり看護計画を学ぶのですが、コロナのために実習に出ることができず、実習に出られたとしても、「患者さんとの接触は15分間」「バイタルサインの測定は不可」などのいろいろな制限がありました。

患者さんと話すこともできないので情報収集はカルテからしかできず、コミュニケーションを通じて患者さんの個別性や心情に触れる機会はありませんでした。実習が映像学習のこともあり、「このままで大丈夫だろうか」という不安はありました。

なかでも一番不安だったのは、助産学の専攻科に入学したときです。看護大学で母性の看護実習をしていなかったので、産婦さんのお腹に触れたことがなかったんです。

ただ、専攻科では実習の8割くらいは実施されたので、助産に関する実践は経験できました。それでも、基礎となる看護の実践が不足していたので、就職時は不安が大きかったです。

実習経験の少ない新人さんを受け入れる大変さは感じましたか。

浦野:コロナ禍の入職者については、前年度にメンターを担っていた先輩に、実習ができなかった代の新人さんを受け入れた経験を聞き、指導のスピードを遅くしたり、一つひとつ確実にステップアップできるように、計画も丁寧に立てるなど配慮したつもりです。 バイタルサインをとったことがなかったというのは、今初めて聞きました。岩戸さんは基本的な部分で心配することはなかったと記憶していますが、本人は基本的な経験が少ないと想像以上に不安を抱えていたのかも知れませんね。技術面に関しては、病院全体の研修と病棟の研修でフォローしていました。

研修で技術を習得。ゆっくり確実にステップアップ

入職後の研修はいかがでしたか。

岩戸:病院全体で行う中央研修は2週間ありました。いろいろな学校の卒業生が集まってきていたので、技術も経験もさまざまでした。皆の実習の内容や期間を聞くと、私は経験が少ないほうだということがわかり、皆と同じようにできるのか不安がありました。でも、看護技術も基礎のレベルからゆっくりと教えてもらうことができたので私でもついていけました。自分のペースに合っていたのかも知れません。

病棟でも、最初の3か月間はじっくりと臨床研修を受けることができました。コロナ禍で産科以外の患者さんも受け入れていましたが、まずは産科の患者さんに関われるよう、産科の患者さんだけを受け持たせてもらったり、少しずつ業務に慣れるように配慮してもらいました。新入職者は私を含めて5人いましたが、それぞれのスキルチェックを行い、自分の経験に合った指導をしてもらったことがうれしかったです。

指導や研修を振り返り、今感じていることを聞かせてください。

浦野:今年は新人5人に対しメンター2人で担当しました。例年5年目のスタッフが新人教育の担当者となるのですが、私の代は人数が少なく、新人さん5人にゆっくり丁寧に向き合うのが難しい状況でした。途中メンターの入れ替わりなどもあり、岩戸さんに不安を感じさせてしまったと思います。もっと時間をつくり、話をいろいろと聞いたり相談に乗ったりできたらもっとよかったのかもしれません。

岩戸:自分から発信するのが弱かったなと思っています。業務中はその都度わからないことを聞くことができ確認しながら行えましたが、不安な点やつらいことなどメンタル的な部分をもっと相談できたのではと感じています。
実習は、メンターへの報告や相談なども必要で、それも重要なスキルです。私はまだまだコミュニケーションが足りない部分があるので、今後は少しずつ自発的にコミュニケーションがとれるようにしていきたいです。

経験不足をバネに。まだまだ成長していきたい

2年目を迎えるにあたり、目標や新人さんの成長できた点などを教えてください。

岩戸:わからないことはもっと積極的に聞いて、できることをどんどん増やしていきたいです。2年目になれば先輩の目が離れると思いますが、だからこそ、離れても安心してもらえるようにならなければと感じています。

来年入ってくる新人は実習を積んできた方たちなので、もしかしたら技術面ではアドバイスできることは少ないかも知れませんが、年齢が近いので自分から声をかけたり相談に乗ってあげたりできる雰囲気をつくれるようになりたいです。

今の病棟は、私が経験したいことや足りない部分を皆が気にしてくれる恵まれた環境なんです。浦野さんにはいろいろと迷惑をかけているのは感じていますが、一人ひとりをすごくよく見てくれていることも気づいていますし、もっと安心してもらえるように頑張りたいですね。

浦野:今後も、経験していないことや体験したいことはどんどん出てくると思いますが、その都度タイミングを逃さずに自分から発信することでもっと成長していけると思います。岩戸さんは患者さんへの対応も丁寧でしっかりと学ぶ姿勢も持っていますので、安心して任せられると思っています。

私たちの病棟はコロナのとき、「大変だからこそみんなで頑張ろう!」という思いを持ち、さまざまなことを乗り越えてきました。コロナ以降、産科以外の患者さんも受け入れるようになり、思い描いていた助産師の仕事とは違ってしまったかも知れませんが、今後もよい部分をたくさん伸ばしていってくれたらうれしく思います。