想像を超える変化でした

【送り出した人】

東京都健康長寿医療センター
看護部 副看護部長 成田 由香 さん
看護部 研修教育担当 綾村 可歩理 さん

急性期のナースが、在宅看護で研修しました!
〜「東京都健康長寿医療センター」と「東京都看護協会立城北看護ステーション」の取り組み〜
東京都健康長寿医療センターでは平成29年度から高齢者看護領域のスキルアップを目指すため「高齢者看護エキスパート研修」を実施しています。
さまざまな研修プログラムのなかでも、3期目となる今回にはじめて導入された「訪問看護ステーション実地研修 」は、研修受講生に強いインパクトを与え、その後の仕事にも大きな影響をもたらしたようです。今回は「訪問看護ステーション実地研修 」について、「スタッフを送り出した側」「受け入れた側」「研修プログラムを作った側」のインタビューを紹介します。

【編集部】
「高齢者看護エキスパート研修」について簡単にご説明をお願いします。

成田:
5年目以上の看護師を対象に、「高齢者看護における専門知識や技術を理論的に探究し、臨床における質の高い看護実践と、指導的役割を果たす人材を育成する」目的の1年半のコース研修です。
高齢者医療の概論や、疾患、薬物、ケアの実際、倫理的な課題などを学ぶほか、他職種と協働する力の育成や事例研究、リーダーシップなどもプログラムに含まれています。

位置づけとしては「院内研修」ですが、2期生からは、ほかの病院からも受講生を募っており、また、講座内容によっては、公開講座にして、より多くの看護師に聴講してもらっています。

【編集部】
どんな目的で応募してきた看護師が多かったですか?

綾村:
高齢者の意思決定支援などをテーマにしている受講生が多かったです。そのために疾患を理解したい、今の時代の地域医療を学びたい、地域包括ケアシステムがどうやって機能しているのか知りたいなど、最初は「知識がほしい」という目的が多かった気がします。

【編集部】
では、送り出す側の目的は?

綾村:
今まで病棟看護師は、地域の看護師とつながる機会はあっても、どこまで踏み込んでよいのかわかりませんでした。入院前にどうやって生活していたか聞きたい、退院後どうなったのか知りたいと思っても、わざわざ電話して聞くほどでも、と自分のなかでなんとなく推察して終わっていました。しかし、エキスパート看護師としては、そこを学んで、リアルに感じて、わかったうえで現場を整えてほしかったんです。

さらに、研修に行くことで地域医療とのつながりが生まれ、「その後も電話をかけやすくなるといいなぁ」「聞きたいことを聞けるといいなぁ」という思いもありました。

【編集部】
研修前、研修後の受講生はどうでしたか?

綾村:
行く前は、訪問看護の経験がない看護師がほとんどで、持ち物から服装から、どうしてよいかわからず緊張して挑んでいましたね。未知の世界に飛び込む怖さもあったと思います。

でも、研修後はみんな「楽しかった!」と言っていました。「急性期病院から退院した患者さんがこんな生活しているの⁉︎」という衝撃を、キラキラした表情で語ってくれました。
「病院ではあり得ない環境でも、在宅だと暮らしていけるんだ!」「高齢者のもっている力を信じようと思った」など、感想をたくさん話してくれて、私もとてもうれしかったです。

成田:
病棟看護師はもちろんのこと、普段、「自宅生活」と最も近いところにいる「在宅支援室」の看護師でさえ、「患者さんの表情が全然違った」「視点を変えてものを見ることができた」と、たくさんの経験をして帰ってきました。

精神疾患をもつ利用者さんのご自宅に訪問した精神科の看護師も、看護に対する思いが大きく変わったようです。
研修後、「退院した患者さんが、”今の自分は幸せだ”と感じられる生活ができるように、病棟看護師がいかに退院時調整できるかが課題だと思う」と言っていました。そういう言葉が出てきたことがうれかったですね。

【編集部】
それは患者さんにとってもうれしいですね

綾村:
そうですね。当院から退院して自宅に帰った方を訪問した際には、「病院の看護師さんが来てくれた」と、患者さんの表情が和らいでいたと聞いています。

また逆に、研修生の病棟に、利用者さんが緊急入院してきたケースもあり、「あ、〇〇さんじゃないか」と、緊急入院の不安を軽減できたということも聞きました。「私がいるから」と声をかけてあげることができてうれしかったですと、その看護師も話してくれました。

成田:
あとは、「訪問看護師さんの声かけや接し方を見た」こともとても勉強になったようです。

がん患者さんのところに訪問した研修生が、「患者さんの痛いところなど、和やかに、時間をかけて対話していたのが印象的だった」と言っていました。
声かけも望みの引き出し方も、生活の場にいる訪問看護師はとても丁寧だったと言うんです。私たちはつい「痛いところはないですか」「困ったことはないですか」など、こちらの聞きたいことを端的に聞いてしまう、と。それに気づけた彼女の今後に期待しています。

【編集部】
研修の前後で、院内の雰囲気や、地域医療との関係性も変わりましたか?

成田:
今回の経験を、研修に行っていない看護師にもシェアしてください、と伝えていたので、「すごくよかった!」と言うだけでなく、「患者さんが望めば帰れる!」とか、「訪問の看護師さんにも、ちゃんと伝えよう」など、たくさん啓蒙してくれています。彼女たちがきっかけで、病院全体がもっと患者さん中心の退院支援に変われると感じています。

綾村:
「立場が違う相手にも、ちゃんと伝えよう」「伝えれば変わる」と実感した経験は、地域医療に対してだけでなく、院内の他部署とのやりとりにも活かされていると感じます。「自分が声を発することでこんなに変わるんだ」「院内の他職種の方にも、こう伝えたら変わるんだ。対話しよう」という意識をもってくれました。

訪問看護の人に今まで伝えられなかったことも、相談しやすくなった気がしています。
これからは、「私はこう思って看護していたけど、こんなところに課題を感じています。ここからはよろしく願いします」と、バトンを引き継いでいけたらいいなぁと思っています。

【編集部】
最後に、今回の「エキスパート研修」を振り返って、感じたことをお聞かせください。

成田:
今回の「エキスパート研修」では、座学の講義もたくさんありましたが、やはり実体験に勝るものはないと実感しました。
研修生たちにとって、とても有意義な研修になったようで、私たちの想像を超える成長を見せてくれました。そんな看護師たちの姿を見て「よし!」と確かな手応えを感じ、「やってよかった」「今後も続けていきたい」と思いました。それを受け入れてくれた城北看護ステーションさんにも、あらためて感謝しています。

現場に行くことで、新たな気づきがあり、エキスパート研修全体の研修の設計も変わるのでは、とも思っていますので、近いうちに私も参加したいです!

綾村:
経験するのって大事だな、と思いました。
エキスパート研修に行った研修生は、もともと知識があり、何か聞いたとき、模範解答を言える看護師たちです。でも、実際の現場では一歩踏み出すことができていなかったかもしれません。今回の研修が、踏み出すために背中を押してくれるきっかけになったんじゃないかと思っています。今後は、「高齢者看護エキスパート研修」の継続はもちろん、「看護研修」という枠を超えて、さまざまな職種や経験年数の医療者に行ってもらいたいと思っています。私もいつか行きたいです!