足立区地域包括支援センター はなはた
末永千紘 さん
<<看護とうきょう P.6>>
看護の専門性を活かして地域の頼れる相談窓口に
「病院では見えなかった地域住民の暮らしを知りたい」。そんな思いから、5年間の病棟勤務を経て、地域包括支援センター(以下、包括)への転職を決意しました。保健師として、高齢者やご家族からの健康や介護の相談対応、認知症カフェの運営など、医療と生活支援の両面から住民の健康づくりを支援しています。包括で働き始めて、「看護の専門性を活かしながら、地域住民の暮らしに寄り添える」というやりがいに出会えました。包括は介護や福祉の知識も身につき、成長できる場所なので、思いきってチャレンジしてみると視野やキャリアの幅が広がるかもしれません。
Profile:
2023年4月に病院から転職し、地域包括支援センター(包括)で勤務して2年目になる。包括の業務は幅広く、日々勉強が必要と感じている。最近は時間にも体力にも余裕ができ、好きなバンドのライブに行ったり、ディズニーランドに行ったりとプライベートも充実して過ごせている。
地域包括支援センターでは、どのような業務を担当されていますか。
地域包括支援センター(包括)は、保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャー(介護支援専門員)の3職種が配置されており、住民の健康の保持や生活の安定に必要な援助を、チームで行っています。
包括の業務内容は、「個別支援」と「地域支援」に大きく分けられます。個別支援は、高齢者やご家族などから介護や生活上の相談を受ける「総合相談支援業務」、支援が困難なケースに対する「地域のケアマネジャーへの支援業務」、高齢者への虐待やセルフネグレクトへの対応といった「権利擁護業務」などです。
地域への支援業務としては、「地域住民向けの介護予防教室」や「認知症カフェなどの運営」をしています。
総合相談支援業務では、どのような相談が多いのでしょうか。
高齢者ご本人が電話や来所でご相談されるケースは、独居や高齢者世帯、ご家族が遠方にいたり疎遠だったりする方など、周囲に頼れる人のいない方が多いです。「医療費が高額で困っている」「タクシーの無料券はどこでもらえるのか」など生活上のあらゆる困りごとのご相談が、包括に寄せられます。
たとえ包括で直接担当する業務でなくても、スタッフ間で検討したり担当の機関を調べたりして、解決のための問い合わせ先をご案内するようにしています。利用者さんと接していて、「認知症かもしれない」と感じたら、家庭訪問したりご家族にアプローチしたりもしていますね。
ご家族からご相談があるケースは、「親が認知症のようだが、どのように対応したらよいか?」といった介護の相談が多いです。ご家族に介護保険申請を促し、ケアマネジャーと契約してサービスが受けられるように支援しています。
ケアマネジャー支援の具体的な内容を教えていただけますか。
地域のケアマネジャーから、支援に困っているケースの相談があった際に、対応策を助言したり、訪問に同行して支援したりしています。
たとえば、ケアマネジャーから「高齢者がご家族から叩かれている様子があり、虐待の疑いがある」と相談があった場合、事実確認のために包括のスタッフが2人ペアで訪問します。保健師は、利用者の身体にあざがないか確認して写真を撮ったり、受診が必要な状態か観察したりと、主に医療的な判断をする役割です。
訪問の結果、虐待を疑われるときは、足立区の高齢者の権利擁護を担当する部署に報告をし、対処方法を検討しています。
認知症カフェでは、どのような活動をされていますか。
認知症カフェは住民の介護予防のために、包括の保健師が主体となって月に1回開催しており、誰でも参加可能です。お茶を飲みつつおしゃべりを楽しんだり、脳トレゲームをしたりしながら、保健師は参加者の体調や認知機能の変化を観察するようにしています。
認知症カフェは、介護保険サービスのような手続きが必要ないため、サービスの導入を拒まれていた独居の高齢者が、参加してくださったケースもあります。認知症カフェは、参加者同士の交流を見守りながら、必要に応じて要介護度やサービスの見直しなどにつなげるきっかけとなる場所です。
なぜ、病院から地域包括支援センターへの転職を決めたのでしょうか。
包括に入職するまで、私は看護師として外科の急性期病棟で5年間勤務しました。病棟では、患者さんが地域でどのように生活しているのかが見えず、患者さんやご家族のご希望に添った退院支援が進めづらいと感じていました。そうして、地域住民の暮らしを知りたいという思いが強くなっていき、病院以外への転職を考えるようになりました。
訪問看護ステーションへの転職も考えましたが、保健師として介護予防事業に携わってみたいと思ったことと、医療以外の幅広い業務が経験できるイメージがあり、包括での勤務を選びました。
実際に働いてみて、想像していた仕事内容との違いや新たな発見はありましたか。
包括で働き始めると、年金制度や医療保険制度など知らないことがたくさんあり、日々新しい学びにつながっています。介護保険の知識を身につけないとケアマネジャーの支援もできないと考え、介護支援専門員資格も取得しました。
虐待や支援困難なケースの対応に悩むこともありますが、包括には多職種の経験豊富なスタッフがいるため、わからないことは何度でも相談して解決できる環境にあり、安心して働けています。
また、病棟勤務時代を振り返ると夜勤があり、仕事とプライベートのバランスがとりにくい面がありました。今の事業所は夜勤がなく、残業もほとんどないため、仕事後に友人との食事や趣味の時間がもてるようになり充実していると感じています。
印象に残っている困難事例について教えてください。
セルフネグレクト状態にある独居の高齢者に、支援を拒否されてしまった事例が印象に残っています。最初は、ご本人(Aさん)が区役所に「食料がない」と相談したことで、包括に紹介されました。ご自宅を訪問すると、夏の暑い時期にもかかわらず電気が止まってエアコンが使えない状況で、光熱費も支払えない経済状況と判明しました。このままでは具合が悪くなる可能性が高く、支援が必要な状態でした。しかし、Aさんは人に頼りたくないという思いが強く支援を拒まれ、ドアも開けてもらえない状況になってしまったのです。
事業所内や担当のケアマネジャーとアプローチを検討しながら、粘り強く訪問を続けました。最終的に、自宅で意識はあるものの動けなくなっているところを発見し、救急搬送して一命を取り留めました。
最悪の事態は避けられましたが、「もっと早くに何かできたのではないか」という思いは今も残っています。ただ、このケースをとおして、支援を拒否される方でも諦めずに関わり続ける重要性を学びました。
包括支援センターの保健師として、やりがいを感じるのはどのようなところですか。
家庭訪問の際、「ほかの人にはなかなか話しにくいことを丁寧に聞いてくれたので、相談しやすかった」と利用者に言われたときは、特にうれしかったですね。毎日、住民からのさまざまな相談をお受けしていると、「包括はなんでも相談できて、解決の糸口が見つかるところ」と期待されているのを感じ、頑張ろうと思えます。
病棟勤務時代と比べて、包括ではケアマネジャー・行政・病院・民生委員などと直接連携してケースの支援ができるようになったことも、やりがいの1つです。包括の保健師は、利用者が必要とする支援につなげる役割を担います。そのため、業務を地域のケアマネジャーに引き継いだ後、ご本人が地域で望む生活ができていると聞くと、「包括の仕事をやっていてよかった」と感じますね。
東京都看護協会に入会している理由やメリットを教えてください。
東京都看護協会では、包括の保健師向けの研修があると知り、入会を決めました。書籍やインターネットで調べても、包括の保健師に関する情報は少ないため、研修があるのは本当に助かっています。医療的な視点で対象者を観察する方法や、地域の病院と円滑に連携するポイントなどを研修で学ぶことで、現場の業務に活かせます。
研修の場で、包括で働くほかの保健師と出会い、「頑張っている仲間がいる」と感じられることもメリットです。
病院以外の働き方にも興味がある若手看護師に、メッセージをお願いします。
実は、私も病棟勤務の頃は地域での看護職の働き方について、あまり知る機会がありませんでした。しかし、包括で働き始めたことで、「看護の専門性を活かしながら、地域の皆さんの健康づくりや生活を支援する」というやりがいに出会えました。包括は介護や福祉の知識も身につき、成長できる場所なので、思いきってチャレンジしてみると視野やキャリアの幅が広がるかもしれません。
今後、力を入れて取り組んでいきたいことを教えてください。
虐待や支援困難ケースの経験をさらに積んで、それぞれのケースの状況に応じた支援力を高めていきたいです。包括の保健師は、地域の皆さんの「なんでも相談できる身近な窓口」です。健康や介護の不安など、さまざまな生活上の心配ごとに寄り添いながら、住民の皆さんが安心して暮らせる地域づくりに貢献していければと思います。
成城木下病院
秋山佳重 さん
<<看護とうきょう P.6>>
毎日の学びで気づいた「伸びしろ」自分の成長を感じる瞬間にワクワクしています
新しい職場ではベテランの先輩方に囲まれ、「自分にもまだまだ伸びしろがあるんだ」という発見と、日々できることが増えていく楽しみがある毎日で、新人時代に戻ったような気持ちで頑張れています。助産師としての幅広い視野や裁量が求められる環境なので、自分のスキル不足に落ち込むこともありますが、忘れていた向上心や自分の成長を感じられ、とても充実しています。ここに来て再発見できたのは、自分は現場が好きだということ。1人でも多くのお母さんと赤ちゃんのよい思い出となるような瞬間をお手伝いできるよう、今後も広い視野をもった助産師として現場に関わり続けたいです
Profile:
2019年に新卒で東京医科大学病院に入職。5年間勤めた後、現病院へ転職。妊娠中〜産後ケアに携わる。やりがいや難しさを感じながら日々葛藤中。休日には旅行などの趣味を満喫。
なぜ助産師になろうと思ったのでしょうか。
祖母が准看護師だったので、日常的に看護師という存在に触れて育ちました。実は、高校生の頃から職業として「看護師」をすすめられていたんですが、当時はあまり興味がなかったですし、そもそも自分とは関係ない世界だと思っていました。
私はずっと保育士に憧れていたんです。子どもが好きだったので、漠然と子どもに関われる仕事がいいなと。
大学進学を考え始めたときに、子どもだけじゃなくて赤ちゃんと関わる仕事もいいな、と思うようになり、助産師という仕事が気になり始めました。祖母から聞かされてきた医療の世界が心の片隅にあったのかも知れませんね。記憶に残っていた祖母の姿と、私がずっと好きだった子どもと関わることができる仕事。助産師ならどちらも満たせるだろうと思い、助産師の道に進むことにしました。
これまでの助産師としてのキャリアを教えて下さい。
現在、助産師としては6年目になります。
新卒で大学病院に就職して5年間、産科病棟と産婦人科外来に関わっていました。大学病院時代に私が関わったお産は、下からのお産で80件くらい、帝王切開だと50件くらいです。病棟だけではなく外来も兼務していたので、産科と婦人科を経験しました。お産の現場と、組織としての立場や役割、後輩指導、看護研究なども学びました。
現在の職場には今年の4月に転職しました。転職してから現在まで(取材当時:2024年11月)、すでに20件ほどのお産を経験したので、大学病院の頃と比べるとお産に関わる機会が増えましたね。常に現場にいる感じです。
転職を選んだのはどんな経緯があったのでしょうか。
大学病院では、2年目、3年目と勤務年数を重ねるたびに、リーダーとしての役割や後輩指導が増えていきました。「新人さんの指導者」「新人さんを指導するスタッフを指導する立場」というように、だんだん上のフェーズに上っていく感じでした。
できることも期待されることも増えていくなかで、少しずつ違和感を覚えるようになっていったんです。周囲から課せられている期待を感じつつも、まだ自分の経験では自信を持って指導ができているとは思えず、病棟内での立場と自分自身が感じているスキルにギャップができてしまったんです。
もちろん、後輩指導もやりがいはありましたが、自分としてはもう少し直接患者さんと関わりたいし、お産の経験も積みたいと思っていました。助産師としてまだまだ学ぶべきことはたくさんあり、20代のうちにいろいろなことに挑戦もしたいと思っていました。
大学病院からここに転職を決めたのは、「大学病院とは違う視点でお産を見てみたい」「助産師としてのさまざまな考え方に触れてみたい」という思いが、この病院なら叶えられると思ったからです。
自宅に近くて通勤に負担が少なかったことと、お産の件数が多くて現場に関われる機会が多そうだったことも大きな決め手になりました。また、無痛分娩を行っているので、助産師としての経験が増やせるのも魅力だと思いました。
転職して気づいた大学病院との違いはどんな点ですか。
助産師として判断する範囲が広く、広い視野が求められている点です。例えば大学病院のときは、病棟にいつでも医師がいる環境だったので、多くの判断は医師に委ねることができていました。しかしここでは助産師の裁量の範囲が広く、お産のときもギリギリまでは助産師が産婦さんの管理を行い、最終的に「産まれる」となったときにはじめて医師を呼びます。陣発からお産直前までの管理を担うので関わる時間も長く、助産師としての判断を求められる場面も多くて責任も感じます。
今大変と感じることもありますか。
先輩との実力差を実感する毎日ですね。ここは10年20年という助産師歴のある先輩ばかりなので、完全に「教えてもらう側」に戻りました。新人時代に感じていた自分の成長や向上心みたいな感情を、今また感じることができています。「自分にはまだまだこんなに伸びしろがあったんだ」「今日はこれができるようになった」など、ワクワクするような気持ちもあって、大変ですけど毎日が楽しいです。
実は私、大学病院の新人時代にとても大きなスランプを経験しているんです。
ちょうど先輩のフォローが外れ始めた頃、毎日必死でやっているのにインシデントの連続で、すごく挫折を感じていた時期がありました。何をやっても失敗してしまい自信を持って仕事ができず、あらゆる場面で同期や先輩の力を借りていました。
今でも思いますが、あのときに何とか乗り越えることができたのは周囲の助けがあったからです。本当に感謝しています。ここでも先輩とのスキルの違いに落ち込むことはたくさんありますが、当時のことを思えば「そんなこともある、前を向いて頑張ろう」と思え、切り替えることができています。
経験が活きているんですね。
そうですね。落ち込むことがあっても、それはそれで反省や学びと捉えられ切り替えもうまくできるようになりました。助産師の現場は本当にさまざまなことが起こり、基本は同じでもそれぞれに違うのですが、失敗を引きずらずにリセットしながら一つひとつのお産に正面から向き合っていきたいと思っています。これまで以上によいサポートができたり、昨日までできなかったことができた瞬間は本当に楽しいですね。
今後の目標やキャリアについて聞かせてください。
今の目標はエコーを見ることができるようになりたいです。産科では赤ちゃんの状態を見るために毎日のようにエコーを使います。お腹の中の赤ちゃんの向きや異常の有無などを診察するためには欠かせないのですが、いまだにエコーの見方に自信がないんです。先生がエコー検査をしているときに教えてもらうものの、ちゃんと学ぶ機会があったらぜひ参加したいと思っています。「エコーの見方研修」などがあったらうれしいですね。
今後のキャリアについては、まだはっきりと決めていません。学ぶことだらけの毎日に、必死について行っている感じです。でもやっぱり、「いつまでもお産に関わっていたい」「現場で頑張りたい」という思いはありますね。転職を決めたときの気持ちは変わっていなくて、やっぱり私は現場が好きなんだと思います。
赤ちゃんが生まれてくるまでには長い妊娠期間を安全に過ごせなければならないし、生まれてからが子育ての始まりで、そこからは長い育児が待っています。その中で助産師が関わることができるのは、ほんの1週間ほどです。でも、その一瞬一瞬にいろんな出来事があり、お母さんにとっても赤ちゃんにとってもかけがえのない瞬間だと思うんです。
だから、この時期をどんなふうに過ごすか、どんな思いで赤ちゃんを迎えるかはとても重要です。育児には大変な場面がたくさんあると思うので、そんなときに赤ちゃん誕生の瞬間を思い出してもらって、お母さんの心の支えになれるような思い出として残ってほしいですね。お産の記憶がポジティブなものであれば、子育てで挫けそうになったときにも、「もう少し頑張ろう」という前向きな気持ちになってもらえるんじゃないかと思っています。
今はまだ、この先のライフプランについてはわかりませんが、自分が出産を経験したら今以上に患者さんに共感することもでき、心から寄り添ったケアもできると思います。患者さんにかける言葉も変わるかも知れません。そのときは、助産師としてさらに成長できるんじゃないかと思っていて、今から楽しみでもあります。
私はおそらく、ずっと助産師を続けると思います。場所を変えても、立場やライフステージが変わっても、そのときにできることを最大限に活かしながら、生涯助産師としてお産に関わり続けている気がしますね。
JCHO東京新宿メディカルセンター
附属訪問看護ステーションなないろ
家山加奈子 さん
<<看護とうきょう P.6>>
奥が深い訪問看護 今後も在宅医療に関わりたい
日々試行錯誤しながら改善し続ける訪問看護は、知れば知るほど奥が深い魅力的な仕事です。「人」と「人」としてじっくり向き合う看護がしたかった私には、ピッタリだと感じています。訪問看護の世界に飛び込んで4年目ですが、自分のケアで利用者さんの生活がよりよい方向に変わっていく様子に触れられる日々は、楽しさと同時に厳しさも感じます。また、利用者さんごとに異なる環境で提供するケアは病棟看護とはまったく違い、常に自分の看護観が試されている感じがし、学ぶこともたくさんあります。今後も季節の変化を感じながら訪問を楽しみ、在宅医療に関わり続けたいと思います。
Profile:
医療系の大学で予防医学を学んだ後に、看護師になりたいと思うようになり、JCHO東京新宿メディカルセンター附属看護専門学校に入学。2017年に新卒で附属の病院へ入職し、現在8年目。丸4年急性期病棟で勤務し、5年目から附属の訪問看護ステーションへ異動。利用者さんの病気だけでなく人生に寄り添いながら看護を提供できることにやりがいを感じている。趣味は焼き肉を食べることと、冬はスノーボードをすることで、休日は看護師の友人たちと楽しんでいる。
これまでの看護師としてのキャリアを教えて下さい。
今年2024年で看護師8年目になります。JCHO東京新宿メディカルセンターで新卒から4年間、内科と救急と眼科の混合病棟で働いていました。病棟では毎日が学びの連続で、忙しいながらも充実してましたね。基本的な看護技術も病棟の4年間で大体身につけられたと思います。
5年目になるときに訪問看護の世界に飛び込みました。同じ系列の訪問看護ステーションなので、転職というよりも異動になります。病棟で5年目といえば、リーダー業務や後輩指導など、さまざまな場面で戦力になる立場なので、同僚をはじめ病棟の仲間には申し訳ない気持ちもありました。それでも、最終的には自分の挑戦を理解して応援してくれた師長さんや仲間には本当に感謝しています。
なぜ訪問看護に挑戦しようと思ったのですか?
もともと看護師になったきっかけが「誰かの役に立ちたい」という思いからでした。
病棟でももちろんその思いを持って働いていました。最初は必死で看護技術を習得するだけで精一杯でしたが、リーダー業務を担当できるようになり、後輩指導も任されるようになって少しずつ病棟の戦力になっていると思えました。
ただ、病棟の勤務は限られた時間で多くの業務を行う必要があり、時間に追われていた感覚がずっとありました。治療のスケジュールに則った業務が中心となって、かつて抱いていたような患者さんに寄り添う看護師になれていないんじゃないか、と思ったんです。
本当に提供したいケアが提供できずに落ち込んだり、もっと寄り添った関わりがしたかったのにできなかったという自己嫌悪を感じることが増えてきて、少し切り替えが必要な時期なのかもしれないと思うようになりました。
自分の看護観に立ち戻ったという感じでしょうか。
そうですね。いろんな看護観がある中で、自分が描いていた看護がどんな形だったのかを考えてみたときに、訪問看護が気になりました。訪問看護なら患者さんと関わる時間も長いし、落ち着いて話もできて気持ちにも寄り添えるんじゃないか。もしかしたら自分のしたかった寄り添う看護に近づけるかも知れないと思い、思い切って挑戦することにしました。
実際、訪問看護の現場に入ってみると、私が思い描いていた世界がありました。利用者さんとじっくり関わることができる看護です。
目の前の利用者さんのために何ができるかと考えたり、ケアの改善などをあれこれ試行錯誤して考えたりすることも楽しい時間です。また訪問看護は、自分の工夫次第で訪問時間をどれだけ有効に使えるかが変わり、利用者さんと長期間深い部分まで密に関わることができるので、すごくやりがいにつながっています。また、四季を感じながら仕事ができるのもメリットです。利用者さんとお花見に行ったり、季節の行事を楽しみながら日常の支援ができるというのも病棟とは違った楽しみですね。
訪問看護ならではの大変さはありますか?
密に関わるという点が、メリットでもあり大変さもあります。
やっぱり、1対1なので言葉かけひとつで信頼にも不信感にもつながってしまう怖さはあります。また、利用者さんだけじゃなくてご家族との関係性もとても大事です。病院とは違い、訪問看護の場合は利用者さんに選ばれる立場です。信頼関係がうまく築けなければ利用をお断りされることもありますから、ケアの質はもちろんですが、サービス業としての接遇もすごく重要だなと思います。当事業所の周りにもたくさんの訪問看護ステーションがあるので、選ばれる事業所として自分の立ち振る舞いを振り返ることが増えました。
事業所としての教育体制について教えて下さい。
現在の事業所は管理者を含めて常勤看護師が5名で、キャリアの長い先輩ばかりです。皆さんベテランばかりなので何でも教えてもらえる安心感があります。当初は、私があまりにも経験年数が浅いまま異動してきたので、本当に細かく教育してもらいました。
1か月目、3か月目、半年後、というように、段階を踏んで一歩ずつ手厚くフォローしてもらえました。ケアに対しても、こういうときはこうする、こんな場合はどこに連絡するなど、先輩の動きを一つひとつ聞いて真似していきました。5年目くらいで訪問看護に異動するケースがこれまでにはなかったみたいです。
訪問看護は利用者さんのところに1人で行ってケアをしますが、毎日昼と夕方に申し送りをしているので、わからないことはすぐに解消できています。
病院系列の訪問看護事業所ならではのメリットを感じますか?
利用者さんの受診内容などを把握できるのはメリットだと思います。
併設病院を受診している患者さんの場合、電子カルテを通じて情報を共有できるため、治療内容や治療の経過、処方内容がタイムラグなく確認できます。疑問点は医師に確認することができ、すぐにケアに活かせることや、訪問看護利用中に状態が急変した場合も併設病院にスムーズに紹介することができるため、これは併設病院附属の訪問看護だからこその強みだと思います。併設病院には認定看護師、専門看護師、特定行為研修修了者が多数いるため、褥瘡処置、血糖コントロール、疼痛コントロールなどに悩んだ際にはすぐに相談できますし、同行訪問もしていただくことがあります。
また、病院が特定行為研修を行っているので、仕事をしながら受講することもできます。病院併設なので訪問看護の経験を経て病院に戻って退院支援がしたいと思ったときには異動することも可能です。スキルアップもしやすい環境となっています。病院が企画する地域の方との連携の場でコミュニケーションをとることができ、広報活動もしやすかったりもします。
私のように初めて訪問看護に挑戦する場合は、ゆとりのある訪問スケジュールを組んでもらえるのもいいところだと思います。
オンコール当番はスタッフ5人で当番制です。実際に緊急訪問するのは月に1.2回程度で、それ以外は電話対応や主治医へつなぐことが多いです。事業所全体でも利用者さんに緊急事態が起きないようなケアをしています。
そういえば、訪問看護に異動してきてから先手を打てるようになったと思います。次の訪問までに、「利用者さんが困らずに生活できるように何をするべきか」と考えてケアをするようになり、大事に至らないように早めに受診してもらうよう促すこともあります。
今後の目標を聞かせてください。
在宅分野は自分に合っていると思うので、まだまだ訪問看護師を続けていきたいですね。そして、ゆくゆくは往診にも関わってみたいです。訪問看護と違い、医療的な立場で利用者さんを診るのはどんな感じなんだろうなと思っているんです。往診の医師が、何を考えて訪問しているのかも知りたいですし、それを理解したうえで訪問看護をするのもおもしろいかなと思っています。いずれにしろ、ずっと在宅分野に関わっていたいですね。
家山さんにとって訪問看護師とは?
私の考える訪問看護師とは「人生を支える人」です。利用者さんの「人生をサポートする人」というのでしょうか。
疾患を中心に診るのではなく、その方の暮らしの中でどんな支援をすればよりよい生活ができるのか、どんな資源を利用することができて、ご家族のケア力はどのくらいあるのかなど、利用者さんの人生につながる支援をするのが訪問看護師だと思います。また、利用者さんのご家族の人生や心を支えるのも仕事ですから、視野を広く持つことも大切です。
看護師にもいろいろなタイプがいて、病棟や救命でバリバリテキパキと動くのが好きな人もいますが、私みたいに1人の人のケアをじっくり考えて長期的に支援し、焦らずに見守るのが好きな看護師は訪問看護に向いていると思います。
入職5年目のタイミングで訪問看護に挑戦しましたが、一通りの看護処置はできたとしても、それでも悩む場面があるくらい訪問看護は奥が深いです。看護を追求して考えながら改善を重ねる、そんな地道な作業を楽しいと感じられる看護師さんは、ぜひ訪問看護に挑戦してほしいなと思います。
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