~看護師職能委員会Ⅰが紡ぐ、現場と行政の架け橋~
──看護師職能委員会Ⅰの取り組みを教えてください。
委員会:
私たち「看護師職能委員会Ⅰ」は、病院領域で働く看護職の声に耳を傾け、現場の課題解決や処遇改善に向けて検討・実践を重ねている委員会です。委員の任期は1期2年(最長3期6年)ですが、ほとんどのメンバーが6年間継続して活動しています。
主な活動としては、現場の課題に関するさまざまな調査・研究を行い、学会発表を通じて広く発信しているほか、コロナ禍までは、最新のトピックスを取り入れた特定行為研修に関わることやタスク・シフト/シェアをテーマにした研修、交流会などを企画・運営してきました。
委員会には、病院勤務の看護管理者から看護系大学教員、准看護師まで、多様な背景をもつメンバーが参画しています。現場だけではカバーしきれない学術的な視点を取り入れ、異なる立場からの多角的な意見を交わすことができるため、毎回とても深い学びを得られる場となっています。
──現場の課題に対して、委員会はどのように取り組んでいますか。
委員会:
現在、現場は人員確保や「タスク・シフト/シェア」など、多くの課題に直面しています。特にタスク・シフト/シェアは、看護職だけでなく、医師や経営層、他職種との協働が不可欠です。予算を伴う取り組みも多いため、経営側の理解を得ることがスムーズな推進の鍵を握ります。
その第一歩となるのが、業務移管によって「看護職が本来の専門業務に集中できる」というメリットを周囲に理解してもらうことです。まずは私たち自身が目的を明確にし、その必要性を病院側に粘り強く伝えていかなくてはなりません。
同時に、この働きかけは一病院内にとどまらず、厚生労働省など行政に対しても同様に行う必要があります。東京都看護協会として東京都知事や東京都議会各政党へ要望書を提出し、制度や予算の面から現場の政策的なバックアップを行うことこそが、私たちの最も重要な役割だと思っています。
──委員会の活動は病院の現場に届いていると感じますか。
委員会:
職能委員会の活動について、現場ではなかなか周知されていないのが現状です。委員のなかには、参加するまで活動内容を知らなかったという方もいますし、多くの皆様は委員会があること自体、まだ知らないのではないかと思います。
一方で、東京都看護協会として取り組んでいる活動への認知は、少しずつ高まっていると感じています。私たちはこれまで、委員会で課題の解決策の検討に向けた研究に取り組み、日本看護管理学会や日本看護学会学術集会などで発表を続けてきました。そのプロセスを通して、「現場の課題を調査すること」と、「その成果を発表や報告という形で発信すること」の双方がいかに重要であるかに気づくことができました。
今後もこの「調査」と「発信」のサイクルをさらに回し、現場の潜在的な課題をすくい上げながら、看護の質の向上と環境改善につながる活動を積み重ねていきたいと考えています。
──現場の声を直接集める取り組みとして、どのようなことをしていますか。
委員会:
昨年、認定看護管理者研修の受講生約300人を対象に、各施設の看護職が抱えている課題について調査しました。私たちが想像している以上に、皆様はさまざまな課題を抱えていることがわかりました。看護実践をするうえでの倫理的な気づきに関することや、中堅看護師・指導者の育成、タスク・シフト/シェアに関する回答が多く、特に倫理的課題への気づきや対応方法の習得は難しいと感じました。
──倫理的な課題が難しいことについて、具体的に教えてください。
委員会:
私たちが目指しているのは、倫理的な課題に対して部署でカンファレンスを開き、チーム全体で「何が患者さんにとって大切か」を考え抜く看護です。
しかし、現場は診療の補助業務に追われ、在院日数の短縮によって患者さんと関わる時間は減る一方です。入院と同時に退院を見据えるよう急かされても、核家族化が進んだ今の社会環境では、退院後の受け皿が見つからないケースもあります。
つまり、社会の仕組みが追いついていない状況を、看護の現場がすべて引き受けてしまっているのです。こうした時間的・環境的な余裕のなさが、チームで倫理を語り合う機会の少なさにつながっていると考えています。
──若手育成において、現場ではどのような難しさがありますか。
委員会:
現場の指導者は、若手一人ひとりの個性や看護の知識・技術の習得状況に合わせ、心身の負担にならないようタイミングや伝え方を常に模索しています。しかし、指導側も若手側も多忙を極める今、病院の限られたリソースだけで人材育成を完結させるのは容易ではありません。
失敗を振り返り、それを乗り越えていくために今まさに求められているのが「社会人基礎力」です。
東京都看護協会は、こうした「院内教育だけではカバーしきれない」という現場の切実な声を受け、新人看護職を対象にした「社会人基礎力習得セミナー」を立ち上げました。
開設から3年目を迎えた今年は、年間約1,200人もの新人が参加する規模に成長しています。この学びが現場で真の成果として現れるのはこれからだと、大きな期待を寄せています。
──委員会の活動を通じて、現場に活かせることはありますか。
委員会:
委員会では、他施設の素晴らしい取り組みをたくさん共有できます。例えば「身体的拘束最小化」のために、拘束具をあえて地下の倉庫で管理している病院の取り組みを伺いました。「地下まで取りに行く手間を考えたら、患者さんのために拘束をしない方法を考えよう」という逆転の発想に、とても感銘を受けました。
また、昨年から在宅や介護施設領域の看護師職能委員会Ⅱの方々と会議を重ねるなかで、訪問看護師の「どんな状態の患者さんでも、いつでも地域へ戻していただいてかまいません」という言葉にハッとさせられました。病院の目線だけで、「安全面から在宅復帰は難しい」と思い込んでいたことに気づかされたのです。
同時に、私たちが普段書いている退院サマリーが、訪問看護師には伝わりにくい、活用が難しいという盲点にも気づくことができました。こうした委員会での数々の発見や刺激が、自施設の看護をアップデートする大きなヒントになっています。
──令和8年度の取り組みを教えてください。
委員会:
昨年の調査結果を協会のウェブサイトで報告し、令和9年1月には東京都看護学会で交流企画を開催したいと考えています。看護管理者はもちろん、人材育成のキーパーソンである中堅看護師の方たちにもぜひ参加してほしいです。
抱えている課題は同じでも、施設によっては解決が難しいこともあります。だからこそ、生の声を聞いて課題を共有する必要があります。「ここに来てよかった」と思えるような場にしていけたらと考えています。
──委員になったことで変化した思いや、気づいたことを教えてください。
Aさん:
看護師長という立場になると、自施設のなかで自分自身がアドバイスをもらえる機会は滅多にありません。だからこそ、委員会という場所で自施設だけでは見えてこない他施設の現状を知ったり、日頃抱えているモヤモヤを打ち明けて意見を交わしたりできる時間は非常に貴重です。
ここには、さまざまな背景や豊かな経験を持つ仲間がいます。そうした方々から客観的なアドバイスをいただける環境は本当にありがたく、日々のマネジメントの支えになっています。
Bさん:
以前、自施設の内服管理の件でどうしても困っていたことがありました。
その際、前任者が「他施設ではどうしているか、ちょっと聞いてみるね」と委員会で得た他施設の具体的な解決策をスピーディーに伝えてくれました。
課題にぶつかったとき、他施設の状況をダイレクトに、かつ気軽にリサーチできる場がある。その圧倒的なネットワークの心強さを、身をもって実感した出来事でした。
Cさん:
他施設の実情を伺うまで、実は自分の働いている環境がどれほど恵まれているのかに気づきませんでした。自施設にいるだけでは見えなかった点に気づけたのは、この委員会に参加したからこそだと実感しています。
だからこそ、こうした貴重な学びや看護協会の活動が、まだ現場へ十分に伝わっていない現状をもどかしく感じています。この活動の価値を、もっと多くの仲間に届けていく必要があります。
Dさん:
地域の医療や生活は、多様な機能をもつ病院によって支えられています。私たちはつい大病院を中心に考えがちですが、実は東京都内の病院の約7割を中小病院が占めているのだと、委員会に参加して初めて知りました。
今後、国の政策として病床数が減少していくなかで、私たちが本当に守るべきものは何か。それは患者さんの「生活」、とりわけ「健康」にほかなりません。
病院の壁を越えた広い視野をもち、「少なくとも東京都の健康は私たち看護職が守る」という強い意識をもつことの大切さを、今改めて実感しています。
──最後に、会員・すべての看護職へメッセージをお願いします。
委員会:
看護師職能委員会Ⅰは今後も病院で働く看護職の皆様の意見を集め、一人ひとりが誇りとやりがいをもっていきいきと働けるよう活動していきます。
看護職が学ぶことで患者さんによりよいケアを提供できるようになり、国の仕組みを変えることで看護職が辞めない環境をつくっていく──。
それが東京都看護協会の大きな役割だと思っています。ぜひ、看護協会に入っていただけたらうれしいです。