特集

看護補助者
との協働

—タスクシフトを進めるために—

医療ニーズの増加と労働人口の減少により、看護師が医療現場で専門性を発揮するためには、看護補助者との協働が重要です。一方、賃金の低さや入職後の業務内容のギャップによる離職などで、看護補助者の雇用や定着に悩む医療機関は多いでしょう。2024年3月からは外国人看護補助者の採用も開始し、看護師と看護補助者の協働に積極的に取り組む東京都済生会中央病院。看護補助者について、「統括する人」「現場を束ねて教育する人」「働く人」にインタビューしました。

  • 統括する人

    東京都済生会中央病院看護部長
    土方ふじ子 さん

    <<看護とうきょう P.3>>
    診療報酬の改定が看護補助者の採用を後押し

    当院では、看護助手(以下、看護補助者)・クラーク・介護員を合わせて「ナーシングアシスタント(NA)」と呼んでいます。看護補助者数は49名で、そのうち外国人の看護補助者は10名です。
    診療報酬の「看護補助体制充実加算」の新設や改定によって、看護補助者の確保や定着の重要性に関して、病院経営層の理解が深まりました。病院の協力が得やすくなったことで、外国人看護補助者の採用も進んでいます。
    現場での看護補助者の活躍や、患者さんに与えるよい影響を病院の経営層や他院の看護職に伝えることも私の役割だと思うので、今後も積極的に行っていきたいです。

    看護補助者の位置づけや雇用数、雇用形態を教えてください。

    土方:
    当院では、看護助手(以下、看護補助者)・クラーク・介護員を合わせて「ナーシングアシスタント(NA)」と呼んでいます。NAは看護部に所属して各病棟へ配置されている一方、NAチームとして組織化されているのが特徴です。NA役職者の筆頭は係長で、続いて主任・副主任が配置されています。12月18日現在、係長は1名、主任3名、副主任4名となっています。

    看護補助者数は49名で、そのうち外国人の看護補助者は10名です(ネパール人、スリランカ人)。看護補助者は東西の病棟からなる各フロア(70~75床)に、3~4名ほど配属されています(2024年12月1日時点)。

    NA全体でみると経験年数3年以上の方が6割程度を占めているため、定着率はよいといえるでしょう。看護補助者の雇用形態は、直接雇用の職員(正社員・契約社員)と派遣社員に分かれています。賃金は雇用形態により異なっている状況です。

    2024年度の診療報酬改定で、ベースアップ評価料が算定できるようになりましたが、看護補助者の賃金アップにつなげられていますか?

    土方:
    はい。ベースアップ評価料の算定や看護補助者処遇改善事業補助金により、月額6,000円の賃金アップができています。

    2024年度の診療報酬改定で「看護補助体制充実加算」の見直しがあり、看護補助者の定着に向けた取り組み、看護補助者の経験年数に着目した評価の新設などがされました。病院の看護補助者の採用や協働には影響していますか?

    土方:
    今回の診療報酬改定によって、3年以上の勤務経験がある看護補助者の必要性が明確になりました。看護補助者の確保や定着の重要性に関して、病院経営層の理解が深まったことで、協力が得やすくなったと思います。

    たとえば、外国人看護補助者の採用を病院に提案していましたが、4年くらいなかなか進まなかったのです。しかし、看護補助体制充実加算の新設と改定の影響を受けて、2024年3月から外国人看護補助者の採用を始められました。

    看護補助者の採用ルートや確保への取り組みを教えてください。

    土方:
    直接雇用は、病院の公式ホームページで求人募集をしています。派遣社員は、人材派遣会社からの紹介です。また、外国人看護補助者は専門の人材派遣会社を介して、派遣社員として入職しています。

    外国人の看護補助者の採用が進んだことで、夜勤を含めて病棟の人手が潤いました。まずは外国人看護補助者の研修生を受け入れて、トラブルがなく現場の助けになることを病院側にアピールし、採用の開始にこぎつけられました。

    今後、看護補助者の確保に関して力を入れていきたいことはありますか?

    土方:
    患者さんに充実したケアを提供するためにも、看護補助者をもっと増やしていきたいです。診療報酬の観点でみても、看護補助者に長く勤めてもらうことがとても大切です。これまで、看護補助者は派遣職員が多かったのですが、勤務年数や能力をしっかりと評価して正社員雇用に切り替えられるように、病院への提案を続けます。

    そして、現場での看護補助者の活躍や、患者さんに与えるよい影響を病院の経営層や他院の看護職に伝えることも私の役割だと思うので、積極的に行っていきたいですね。

  • 現場を束ねて教育する人

    副看護部長
    廣野敏枝 さん

    ナーシングアシスタント係長
    中園芳美 さん

    <<看護とうきょう P.3>>
    教育や業務改善は看護補助者が主体的に

    当院のNA チームは、看護部と協力しながら教育・研修・業務改善などに主体的に取り組んでいる特徴があります。
    患者さんに触れるケアを行っていない看護補助者にとって、いきなり清拭やオムツ交換などの担当は、不安感が強いものです。まずは、看護師と一緒に介助に入って、準備や片付けをしてもらうところから始めています。「看護師と一緒に」がキーワードですね。
    また、新人の看護補助者にとって働きやすい職場にするために、定期的なフォロー面談を行っています。面談の情報はNA の役職者間で共有し、病棟でも声をかけたりサポートしたりして見守ることが大切です。対応が必要なことは、すぐ副看護部長や病棟の看護師長に相談して早期解決することで、看護補助者に「一緒にやっている」という安心感をもってもらえるようにしています。綿密なサポートによって、看護補助者の離職が予防できていると感じています。
    これまで、看護補助者の業務は検査の搬送や清掃などが中心になっていましたが、次は患者さんのケアに一緒に入れるように推進したいです。

    看護補助者の教育体制の特徴を教えてください。

    廣野:
    当院のNAチームは、看護部と協力しながら教育・研修・業務改善などに、主体的に取り組んでいる特徴があります。

    採用前の段階で、看護補助者の業務内容について詳しく説明してから入職してもらうことで、採用後のギャップを生じにくくすることが大切です。そして、入職初日はNAの係長や主任が、チーム制度や教育ラダーについて説明したり、実際に勤務場所を案内したりと、オリエンテーションを万全にしています。

    病棟で指導を担当するスタッフや、どのようにサポートするかも事前に決めて、新人の看護補助者が安心して勤務をスタートできる環境を整えています。

    教育ラダーは、どのようなことを重視して作成しているのでしょうか?

    中園:
    教育ラダーは、NAチームでワーキンググループを立ち上げて、日本看護協会の「看護補助者の業務に必要な能力の指標」をもとに、評価項目の内容を見直しているところです。

    教育ラダーは2部制に分ける形で検討しています。当院は、NAに看護補助者・クラーク・介護員が所属しているため、業務の得意分野が異なっていることが理由です。1部は基本姿勢・コンプライアンス・教育などの項目を盛り込み、NA共通で評価できるラダーを作成中です。レベル1の「日常業務を遂行できる」から、レベル3の「チームリーダーになる」ところまで、段階的に評価できるようにと考えています。
    2部は、日本看護協会の看護補助者業務マニュアルに準じて、看護補助者・クラーク・介護員それぞれの能力に合わせた業務の習得状況が、チェックできるリストを検討しています。

    長く働き続けてもらうために、どのようなサポートをしていますか?

    中園:
    看護補助者は、1カ月後、3カ月後、6カ月後に、NAの係長や主任がフォロー面談をして、体調や困っていることなどを聞いています。さらに外国人の看護補助者は、入職後の1カ月間は、仕事が終わったら係長と5分程度の面談をする体制をとっています。

    面談の情報はNAの役職者間で共有し、病棟でも声をかけたりサポートしたりして見守ることが大切です。対応が必要なことは、すぐ副看護部長や病棟の看護師長に相談して早期解決することで、看護補助者に「一緒にやっている」という安心感を持ってもらえるようにしています。綿密なサポートによって、看護補助者の離職が予防できていると感じています。

    外国人看護補助者の言葉の壁を乗り越える工夫を教えてください。

    廣野:
    外国人の看護補助者は、日本語や患者ケアの職業訓練を受けてから入職していますが、日本語はカタコトです。小学校1~2年生くらいの日本語能力と認識して、分かりやすい言葉や業務マニュアルと同じ言葉で話しかけるようにしています。また、ひらがなやカタカナは習得しているため、業務で使う書類の漢字にはルビをつけることも重要です。

    外国人の看護補助者は、NA全体の研修にも参加していますが、言葉の問題で理解できない部分も多いです。そのため、外国人の看護補助者向けの研修〔BLSと感染について(標準予防策)〕は追加でも行っています。

    外国人の看護補助者に対する、患者さんの反応はいかがでしょうか?

    中園:
    外国人の看護補助者が働くようになってから、患者さんとのトラブルは起きておらず、受け入れてもらえている印象です。

    理由としては、当院がある港区は外国人が多い土地柄なこと、外国人看護補助者たちの愛嬌がある優しい人柄があると思います。外国人の患者さんと英語や母国語でコミュニケーションがとれるため、患者さんの安心にもつながっています。また、業務に慣れるまでは日本人の看護補助者とペアで動いているため、スムーズに受け入れられているのではないでしょうか。

    看護師との協働を進めるために、どのような取り組みをしていますか?

    廣野:
    患者さんに触れるケアを行っていない看護補助者にとって、いきなり清拭やオムツ交換などの担当は、不安感が強いものです。まずは、看護師と一緒に介助に入って、準備や片付けをしてもらうところから始めています。「看護師と一緒に」がキーワードですね。

    中園:
    看護師から患者搬送の指示を受けてやろうとしたら、聞いていた内容と患者の状態が異なったり病棟によってやり方が変わったりと、看護補助者が不安を感じることがありました。

    そこで、搬送依頼書を作成し、病院内で統一して使用するようにしたのです。看護補助者が搬送可能なレベル、車いすの移乗介助、検査の付き添いの要不要などが分かるようになりました。この取り組みによって、看護補助者がどこの病棟に応援にいっても、同じ指示のもと実施できています。

    副看護部長・NA係長としての今後の展望を教えてください。

    中園:
    現在、NAのリーダーが病棟を回って人手が足りないところがあったら、他病棟のNAが応援にいき、超過勤務を減らす工夫をしています。自分の部署だけでなく、全体をみて動けるリーダーを、もっと増やしていきたいです。

    廣野:
    やっと看護補助者の人数が増えて、安定してきました。これまで、看護補助者の業務は検査の搬送や清掃などが中心になっていましたが、次は患者さんのケアに一緒に入れるように推進したいです。また、看護補助者のポートフォリオ作成も取り入れていき、誇りや目標を持って働いてもらえるように応援したいと思います。

  • 働く人

    ナーシングアシスタント副主任
    横山茜 さん

    <<看護とうきょう P.3>>
    看護師と一緒に患者さんのケアをしていきたい

    看護補助者として、病棟で患者さんの検査搬送、食事配膳、病室の清掃などを担当しています。現在は、それらの業務に追われていて清拭や食事介助などのケアは行えていません。
    看護師との連携を円滑にするためには、業務に関してわからないことがあったら、自分から積極的に声をかけることが大切です。
    今後は、私も患者さんのケアができるようにスキルアップして、看護師と一緒にやっていきたいと思います。

    担当している業務内容を教えてください。

    横山:
    看護補助者として、急性期病棟で患者さんの検査搬送、食事配膳、退院後の病室の掃除、物品の補充などを担当しています。現在は、それらの業務に追われていて清拭や食事介助などのケアは行えていません。

    私はNAの副主任でもあるため、看護補助者のサポートをしたり相談にのったりする仕事もしています。

    東京都済生会中央病院で働くことを決めた理由はなんでしょうか?

    横山:
    当院に入職する前は、別の病院で外来クラークをしていました。もっと患者さんに寄り添った仕事がしたいという想いがあり、看護補助者の仕事を選んだのです。派遣社員としての仕事を探す中で、当院は外来勤務スタートで、初めて看護補助者をする自分に合っていると感じたので入職しました。

    現在は勤続10年以上になり、正社員として働いています。人間関係がとてもよく、周囲のサポートや優しい言葉がけがあるこの職場で長く働きたいと考えたため、正社員になることを決めました。

    入職後に看護補助者が困っていることや、どう乗り越えているかを教えてください。

    横山:
    入職当初は、医療機材の名前や専門用語を覚える大変さがありましたね。当院は、看護師や周囲のスタッフに分からないことを聞きやすい雰囲気だったため、その都度聞いて解決できました。

    後輩の看護補助者は、「患者さんについて看護師に聞きたいことがあるが、どのタイミングでどう伝えたらいいかが分からない」ということも。看護師に話しかけるタイミングや伝え方を具体的に教えて、サポートするようにしています。

    看護師と連携するうえで大切だと思うことはありますか?

    横山:
    患者さんとのやりとりや業務の内容などで、分からないことや気になることがあったら、自分から周囲に声をかけていくことが大切です。担当看護師にかぎらず、NAのリーダーや周囲の看護師に声をかけて、病棟全体で必要な情報を共有できるようにすることが、患者さんにとって安全でよいケアにつながります。

    患者さんによりよい看護サービスを提供するうえで、取り組んでいきたいことはありますか?

    横山:
    今後は、患者さんのオムツ交換・清拭・食事介助などのケアを、サポートできるようにしていきたいです。ケアの多い患者さんを看護師だけで介助するのは負担が大きいため、私も早く患者さんのケアができるようにスキルアップして、一緒にやっていきたいと思います。

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