特 集

地域をつなぐ看護の力

―看看連携の今とこれからー

病院・地域で働く看護師が座談会で語る

2040年問題を見据え、医療や介護は大きな転換期を迎えています。入院治療後も地域や自宅で療養を続ける人が増え、療養の場は病院から在宅へと移りつつあり、病院と地域をつなぐ看護職の役割は、ますます重要になっています。一方で、病院から在宅への移行に際しては、引き継ぎ不足や情報共有の難しさなど、連携の課題も少なくありません。地域全体の看護力を高め、専門性の高い看護職を地域へつなぐ取り組みは、今後の医療を支える重要なテーマといえるでしょう。
地域を支える「看看連携」の取り組みを取材しました。

地域と病院の架け橋

地域と病院の看護師をつなぐ「架け橋」に

日本郵政株式会社 東京逓信病院
患者支援センター・医療連携支援センター 看護師長
菊地 良子さん

東京逓信病院の患者支援センターで、入退院調整やがん相談などを担当しています。現在の連絡手段は電話やファクスが主ですが、地域で進むICT活用のお話を伺い、連携の新たな可能性を感じました。これまでの連携で印象深いのは、訪看の三橋さんと密に連絡し、複雑な家庭事情の患者さんを支援した事例です。私たちの信頼関係が、ご本人やご家族の安心感に直結すると実感しました。そのためにも、地域の情報を私がしっかりと受け止め、病棟看護師へ伝えるように努めています。今後は、病院の看護師が地域の実情を知る機会を積極的につくり、互いの看護を知ることで、スムーズな連携につなげたいと思います。座談会での学びを若手看護師に伝えて、病院全体の看看連携力を底上げしたいと考えています。

看護師同士の連携

看護師同士だからこそ実現できる連携を

株式会社ステラ
九段訪問看護ステーション 所長
三橋 馨さん

九段訪問看護ステーションで、管理者と実務を担っています。地域の看護職・多職種間では連携用ツールを活用したリアルタイムな情報共有も増えてきています。また、複雑な家庭事情を抱える患者さんの事例では、病院の菊地さんとの頻繁な情報交換によって入退院の支援をしました。デリケートな事情を、訪看から病棟看護師に的確に伝えるのはなかなか難しいものです。しかし、まず菊地さんに伝えて、そこから病棟の看護師全体に共有していただくという、理想的な連携ができました。病院との調整はソーシャルワーカーを介することも多いですが、専門的な医療情報の伝達には苦労されている場面も見受けられます。そのため、医療情報を的確に読み解ける看護師同士の連携が重要だと感じます。今後は、デイサービスや施設などで働く看護師とも交流を深めて、地域全体の連携を強化していきたいです。

顔の見える関係

看看連携の土台は「顔の見える」関係

社会福祉法人 東京栄和会
高齢者あんしんセンター麹町 相談員
二上 純子さん

高齢者あんしんセンター麹町(地域包括支援センター)で、主に高齢者の生活や介護に関する相談業務を行っています。ICTは、従来の情報共有法によるタイムラグを解消する、有効な手段だと感じています。がん患者さんの在宅療養時、連携用ツールで体調変化を共有したことで、訪問診療や事業所が即座に動く様子を目の当たりにしました。また、迅速な連携には、「顔の見える関係」が大切です。訪看の三橋さんは、困難な事例や緊急時でも快く引き受けてくださるため、「安心してお願いできる」という信頼感があります。現在、地域では身寄りのない高齢者の意思決定支援が課題です。今後は、病院の認定看護師にお願いして、人生会議(ACP)の講習会を実施したいと考えています。個別のケース対応にとどまらず、看護の専門性を地域の課題解決に活かすような、幅広い連携を目指していきたいです。

地域では連携用ツールの活用も増加

──今回の座談会では、病院、訪問看護ステーション、地域包括支援センターに所属する看護師の視点から、看看連携について事例を交えて語っていただきます。まずは、ご所属と主な業務内容を教えてください。

菊地

私は東京逓信病院(以下、逓信病院)の患者支援センター・地域連携室で、看護師長を務めています。患者支援センターには、患者さんに入院前説明をする部門(入院部門)と、退院支援部門や、がん相談支援センターなどがあります。
主な業務は患者支援センターの看護師の統括、患者さんの入退院調整などです。また、がん看護サポーターの看護師や緩和ケアチームのスタッフと連携して、患者さんの療養に関する相談業務や情報提供にも携わっています。

本日は皆さまとお話するのを楽しみにしていました。どうぞよろしくお願いいたします。

三橋

こちらこそ、よろしくお願いいたします!

私は株式会社ステラの代表取締役、九段訪問看護ステーション(以下、九段訪看)の所長として、主に管理者業務を行っています。また、新規利用者さん受け入れの調整や訪看の実務にも携わっています。

二上

本日はよろしくお願いいたします。

地域包括支援センター(以下、包括)である「高齢者あんしんセンター麹町」の看護師として、相談員をしています。千代田区内の高齢者や介護保険の第2号被保険者の生活や介護、在宅療養、認知症などの相談対応が主な業務です。また、高齢者への虐待防止・早期発見など、権利擁護に関わる業務も行っています。

──日々の業務で、どのような方法やツールを用いて連携していますか?

菊地

逓信病院では連携が必要になった場合、主な連携手段は電話で、書面でのやりとりはファクスで行っています。地域のほうが情報通信技術(Information and Communication Technology:ICT)の活用は進んでいるイメージがありますが、いかがでしょうか?

三橋

まだまだ、電話とファクスが主流ですね。ただ、地域の看護職・多職種間の連携では、メディカルケアステーション(以下、MCS。エンブレース株式会社)というコミュニケーションツールが導入されるケースも増えてきました。

MCSは、対象の利用者さんに関わる訪看・包括・訪問診療・ケアマネジャーなどの事業所が登録すると、グループチャットのコメントや画像で情報共有ができるツールです。各事業所はスマートフォンやパソコンでMCSにログインすると、グループチャットの閲覧・投稿が行えます。

メディカルケアステーション(MCS)の活用イメージ
二上

以前、60歳代男性の胃がんの患者さん(Aさん)のケースは、MCSを活用していましたよね。

グループチャットで「Aさんが嘔吐している」と九段訪看からの情報が投稿されると、訪問診療が早急に把握し処方薬の検討がされていました。また、「活動性が落ちている」と投稿されれば、福祉用具貸与事業所がベッドのマットレスを調整していました。

従来は、各事業所からの情報はケアマネジャーがファクスで伝達することが多く、大変な時間と労力がかかっていました。どうしても、患者さんに必要な支援が届くのも遅くなりがちです。しかし、MCSの活用によって、関係者間でダイレクトに情報共有ができるようになりました。包括の看護師としても、サービス導入後の患者さんの様子がチャットで把握できていれば、支援が必要なタイミングですぐに動けますし、とても役立つツールだと感じています。

菊地

すごく便利なツールですね! 現在、逓信病院はMCSを利用していませんが、利用できれば看看連携がよりスムーズになりそうです。

──二上さんのAさんへの支援内容と、訪看との連携について教えてください。

二上

私は、逓信病院のがん相談支援センターの看護師から連絡を受けて、Aさんの介護保険の申請やサービス導入の支援を行いました。Aさんは独居で、自営業のお仕事をされている方でした。病状は末期でしたが、仕事の整理のために在宅療養を希望していると、情報をいただきました。そこで、介護保険申請と同時進行でケアマネジャーを選定し、九段訪看や訪問診療にも迅速に介入いただき、在宅療養へ移行できました。

三橋

Aさんは「調子が悪いな」と受診したら、思いがけず末期がんと診断された経緯があります。Aさんが困っている状況を二上さんがご連絡くださり、訪看の導入につながりました。

二上

訪看との連携がうまく進んだ理由は、以前から三橋さんとは「顔が見える関係」ができており、「安心してお願いできる」という信頼感があったからです。日頃の連携を通して、たとえ困難な事例や年末年始の緊急時でも訪問を快く引き受けてくださる、三橋さんや九段訪看の姿勢を知っていました。

三橋

二上さんとは千代田区の事業者向けの研修や会議で顔を合わせていましたし、包括の予防事業にも関わらせていただいていました。そういった普段からの関係性が、利用者さんの個別連携のしやすさにもつながったのだと思います。

座談会の様子

看護職間の結び付きがもたらす安心感

──逓信病院と九段訪看の連携がうまくいった事例を教えてください。

菊地

80歳代女性の末期がんの患者さん(Bさん)の事例が印象に残っています。Bさんは亡くなるまでに4回ほど入退院があり、九段訪看の三橋さんとは電話で頻繁に情報共有をして、調整を行っていました。

三橋

Bさんの介護者は、同居の娘さんでした。その娘さんと別居されているご親族の関係が複雑で、入院時の面会で顔を合わせないように配慮が必要な状況でした。そうしたデリケートな事情を、訪看から病棟看護師に的確に伝えるのはなかなか難しいものです。しかし、菊地さんはしっかりと把握してくださり、そこから緩和ケア病棟の看護師全体に共有していただけました。

また、療養に関するBさんやご家族の心配ごとに対して、私たちは、「(病院の)菊地さんに伝えておくね」「(訪看の)三橋から聞いているよ」のスタンスで関わっていました。そのような私たちの通じ合っている関係性が見えると、Bさんは安心して入退院ができ、ご家族も病院や訪看にケアを任せやすいようでした。

菊地

緩和ケア病棟の看護師は、患者さんだけでなくご家族へのケアも大切にしています。そのために、病棟看護師が知るべき情報は私が訪看から受け止めて、伝えるように努めています。

二上

病棟は複数の看護師で患者さんをケアしますし、夜勤もあって情報がなかなか伝わりにくい場合があるかと思います。でも、どうしても配慮が必要で、伝えなければいけない情報もあります。そんなときに、菊地さんに伝えれば病棟で共有していただけると思うと、伝える側は安心感がありますよね。まさに、理想的な連携の形だと思います!

──病院・地域間で、連携が難しいと感じる場面はありますか?

菊地

緩和ケア病棟のある患者さんの在宅調整をしたときに、初めて連携する訪看との温度差に戸惑ったことがあります。その患者さんは余命が短いと予測され、スピード感をもって在宅調整をする必要がありました。しかし、先方から「初回訪問は来週になる」と返答があり、結果的に患者さんは病院で最期を迎えられたのです。

そのときは訪問診療がすぐに入ることが難しく、その影響で訪看も入れなかったのかな、と考えました。ただ、私自身ももっとよい伝え方ができれば、患者さんが退院できたのではと感じています。

三橋

急がなければ退院できないのに、訪問診療がなかなか入れないことはありますね。以前、病院の主治医に訪問看護指示書を出していただき、九段訪看が訪問する対応をとったことがあります。その患者さん(Cさん)は、退院後に訪問診療の医療機関に切り替えました。

菊地

そんな対応ができるんですね!

三橋

Cさんは、乳がん末期の酸素療法中の女性でした。逓信病院から「Cさんが早期退院を希望している」とご連絡いただいて、「主治医が訪問看護指示書を出してくだされば、翌日から訪問できます」と答えました。そのときは退院直後にヘルパーが入れなければ、訪看でオムツ交換対応をしてもよいから、退院できるようにと考えていました。

私は、Cさんが死期を悟っているから早く帰りたいのかもしれないと考え、その思いに応えたかったのです。Cさんは退院できたことをとても喜んでくださり、結果的には自宅で半年近く過ごされました。

菊地

訪看でそんな対応ができると知っていたら、私ももう少し粘ってお願いできたかもしれません。初めて連携する訪看で関係がつくれていなかったとはいえ、こちらの意思を伝えきれなかったかなと反省しました。

三橋

相手から「できない」と言われると、「そういうものなのかな」と思って引いてしまいますよね。

二上

患者さんにとって大事なことは、どんどん伝えてもらって大丈夫ですよ! もし、調整が難しければ包括で介入することもできますから。

菊地

それは非常に心強いです! ありがとうございます。

互いを知り、未来の看看連携へ

──今後、看護職間の連携をよりよくするために必要と思うことを教えてください。

二上

迅速に連携するためには、MCSのようなICT導入の促進が必要だと考えます。ただ、事業所の予算や状況によっては導入が難しいケースもあると思いますので、行政の補助金や講習会などの仕組みができるといいですね。

また、人生会議(Advance Care Planning:ACP)を地域の方に広めるために、病院の認定看護師に講習会をしていただく連携ができればと思います。
身寄りがない高齢者が自宅で倒れて意識がなくなり、本人の意思が不明で対応に困るケースが増えており、ACPの重要性を強く感じているためです。個別の患者さんへの対応にとどまらず、看護師の専門性を地域の課題解決に活かすような、幅広い看看連携を目指したいです。

菊地

ぜひ、逓信病院の認定看護師をACPの講習会に派遣させてください! 病院の看護師にはどんどん地域に出て、そこで働く看護師の状況を知ってもらいたいです。互いの役割や働き方を知ることで、連携がよりしやすくなると思います。

病院に訪問看護師を招いて仕事のお話を伺ったり、病院看護師が地域に出向いたりして、互いを知る機会をつくっていきたいです。

三橋

連携はお互いを知ることから始まるのかもしれませんね!

病院との調整は、ソーシャルワーカーを介して行うことも多いです。ソーシャルワーカーは懸命に対応してくれますが、専門的な医療情報の伝達に苦労されている場合があります。

しかし、菊地さんはたとえ面識がない患者さんであっても、電子カルテの情報を的確に把握して提供してくれます。そういうときに、やっぱり看護師同士がもっと連携すべきだなと感じるのです。私たち看護師が看看連携の重要性をしっかりと認識して、より積極的に取り組んでいければと思います。

──最後に、本座談会を通してのご感想をお願いします。

二上

病院や訪看の連携方法を伺ってとても勉強になり、改めて考える機会になりました!座談会で菊地さんと初めてお会いして、また「顔の見える関係」がつくれたので、今後の連携に活かしていきたいです。

菊地

今後ともよろしくお願いいたします! 座談会での学びを今後の連携に活かすとともに、若手の看護師にも伝えて、病院全体の連携力を底上げしていきたいです。本日の座談会のような交流ができる場を、積極的に設けていければと思います。

三橋

本日は普段よく連携している、二上さん、菊地さんと改めてじっくりお話ができてうれしかったです!

デイサービス、施設、訪問入浴などの看護師も、それぞれ違う情報をもっているので、より連携していければと思いました。さまざまな事業所の看護師と、交流できる場があるといいですよね。

菊地

逓信病院で年2回ほど多職種交流会を開いているので、もっといろいろな事業所の看護師に声をかけるようにしてみます。また、私たちで協力して、看護職だけの交流会を開催するのもよいかもしれませんね。

三橋・二上

ぜひ、よろしくお願いします!